「近くに寄ったもんだから来ちまったぜ!」
「帰れ」
――以上。会話、三秒で終了。
- Paradoxically -
いつものように訪れて、いつものように追い返されて。
今日はちょっぴり粘ってみた。
「お前なあ! 此処一ヶ月、毎回毎回そう言いやがってちょっとは俺が恋人だって自覚あんのか?!」
内心、冷たくされて涙がちょちょ切れている元親だが、ここは一つ強気に言ってみた。
恋人という単語に元就はさも嫌そうな顔をしたが、ぐっと我慢する。
こいつは素直じゃないだけなんだ。
こんな顔していても実は滅茶苦茶寂しがりやなんだ。
俺の炎でようやく氷が溶けたんだ。
もっと自信を持って、元親!
などと自分にエールを送りながら、元親は相手の返答を待ち続けた。
あのきっつい目に睨まれるのが少々怖いため(ビビリ)、片目の瞼をぎゅっと押さえる。
ここで優しげな言葉の一つや二つ貰えれば、愛されているという温かな気持ちになれるというのに。
精々貰えて、「また馬鹿なことを」と一蹴されるくらいか。
それでも声をかけてもらえるくらい、望んでも損ではない。
元親はじっと待った。
待った。
――……待ち続けた。
「あのぅ……元就さん? シカトっていうのは、非常にあの、傷付くのですが……」
恐る恐る目を開けた元親は、鬱気味な空気を背負い込みながら元就を見た。
彼は、確かにそこにいる。
座ったまま。元親が来た時と同じように、仕事をしていた。
自分と会話することすら無駄と言われているようで、元親は本当に泣きたくなった。
こいつには期待することすら許されないのか、と心の中にはしょっぱい海原が出来上がりつつある。
「まだそこにいたのか、元親」
どんよりとした気配を察したのか、今気付いたといった様子の元就が顔を上げた。
悪気が一切無さそうな表情が、さらに虚しさを募らせた。
俺ってこんなに立場弱かったっけか……?
自分の立っている位置に微妙に気付きかけた元親は、不意に元就の横顔を見て気付く。
他人が同じ部屋にいるとき、元就は身に沁みている警戒心のせいで微かに背筋を緊張させていた。
初めてこの城を訪れた時も、そうだった。
けれど今、目の前にあるのは微かに力を抜いた背中。
きょとんとそれを見つめていた元親の頬に、じわじわと熱が集まってきた。
「何を見ている、気色が悪い」
嫌そうに眉を寄せた元就。
だけど、帰れ、とは二言目からは決して言わなくなる。
元親はむず痒く込み上げてきた笑みを噛み殺しながらも、その細い背中を愛しげに眺め続けた。
「俺ってお前の空気みたいな存在に、なれてんのか?」
「自意識過剰だ」
ふいっとそっぽを向く元就が、可愛く見えて仕方がない。
末期だなぁ、と溜息を吐き出しながらも、元親はその背中に自分の背中を合わせた。
一瞬の緊張の後、ゆっくりと抜けていく力。
元親は、嬉しくてとうとう笑い声を上げてしまった。
「愚弄するか、海賊めが!」
真っ赤になって怒り出す元就が、こっちを向いた。きっといつも通りの鉄拳が飛んでくる。
それから怒涛の嫌味の嵐がお決まりだ。
けれども元親は始終笑ったまま。幸せを噛み締めていたりする。
叩かれたり、追い出されたり、ご機嫌を伺ったり。
かなり格好が悪いけれども。
何だか満足してしまうのが、惚れた弱味って奴なのかな。
「馬鹿チカ! 少しは反省したらどうなのだ!!」
「へいへい、愛していますよ元就様ー」
にやにやと笑っていれば、今度こそ凶器が出てきた。
騒動に気付いた家臣達が慌てた様子ですっ飛んできても、元就の怒りは落ち着かない。
照れ隠しでこんなに怒ってくれるなんて、嬉しくて堪らない。
「言葉が足りなくたって、愛に障害はないって感じだな!」
眩しい笑顔でそう言った元親の頭に、輪刀が飛んでいった。
- END -
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創作者さんに50未満のお題・選択式お題(題目:二枚目と三枚目)より。
珍しくラブいチカナリでございました。かなり恥ずかしい奴です、兄貴(笑)
この人達のテーマソングは何だかトムジェリな感じ。仲っ良っく喧嘩しな〜♪なノリで。
「Paradoxically」=逆説的に言えば
(2007/02/10)
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