寒色の蒼を纏う五年生の中で、一等明るい陽だまりのような空間が存在する。
 試験明けで疲れていても、実技の補習に魂が抜けかけていても、その場所を見かけるだけで何だかささくれ立っていた気持ちがゆっくりと和らぐのだ。
 運良く陽だまりの側に入れたのならば、どんなに辛い一日を過ごしても明日また頑張ろうという気になってしまう。
 誰にも彼にも好かれてしまう人徳も相成って、彼らの周りには常に人が自然と集まってくる。

 それはまあいい。

 問題はそんな二人がくっついて、温かさが半端無くなったということだ。
 満面の笑みでお付き合いの報告をされた時など、三郎はその眩しさに思わず目を細めてしまった。
 ちなみに隣にいた兵助は、良かったねの一言でにこにこ笑うだけだった。

 穏やかな雷蔵と頑張り屋の八左ヱ門。
 優しくてお人好しだけども時折とんでもなく漢前な二人の周りに漂う癒しの空気につられて、吸い寄せられる人が前よりも多くなった。
 委員会の後輩はもとより、以前は全く関係性が見とめられなかった者達までもが彼らの空気に当てられて、朗らかな笑顔で挨拶してくるのだ。その中には下心を持った奴もちらほらいるものだから、堪ったものではない。

「こいつらは私の癒しなんだ! それを壊そうとする奴は学級委員長の名にかけて成敗してやる!」
「くっついた時には正直ハブられるかもと心配してたくせにー」
「兵助、その話は直ちに忘れろっ!」

 放課後の五年ろ組教室。
 作戦会議という名のお喋りが、教室の隅っこで行なわれていた。
 熱くなっているのは司令官(自称)の三郎で、それに対して相槌やらつっこみやらをいれているのは副司令官(司令官による任命)の兵助だ。
 ちなみに、守るべき対象とされた雷蔵と八左ヱ門は話の展開が読めずに困ったように首を傾げて顔を合わせている。
 教室いた他の同級生達は、三郎の意見にうんうんと心の中で頷きながら、背景に花畑が見えそうな例の陽だまり空間に一日の疲れを癒してもらっていたりした。

「良いか、雷蔵、八。知らない人についていくな。暗い所で一人になるな。これ絶対だぞ!」
「三郎……学園内には知らない人っていないよ? 五年間も住んでいるんだから」
「そうだぞ三郎。一人になるなったって、雷蔵は図書の当直があるし、俺は毒虫捕獲で夜まで駆け回んなきゃならんし」

 ねー、と言いながら笑い合う二人。
 この光景を見ながら豆腐を食べれたのならば、もっと幸せな気分になれるのだろうなと、司令官の話を聞き流しながら兵助はぼんやりと思った。
 組の違う兵助だが、ろ組の戸を開くときの高揚感はきっと三郎以上だろう。
 めでたく結ばれた二人はいつも一緒にいるのだから、兵助を向かい入れてくれる時も勿論一緒である。一人でも十分心が安らぐというのに、これが二つもならんでいるのだから――どんなに凹んでいても、言葉に出来ないくらいに嬉しくなってしまうのだ。
 だから三郎の言い分は、まあ度が過ぎている感じもするけれど、納得している。

「それが危ないのだろう! よし、雷蔵には私がついてやるから、兵助は八についてろ。野外の方が危ない」
「よしきた。組は違うが委員会中は暇だからな!」
「君達、それってストーカーっていうんだよ?」

 雷蔵は笑いながら辛辣な切り替えしをするものの、しかし彼とて恋仲である八左ヱ門が心配である。
 何となく三郎の言いたいことを察した雷蔵は、隣でまだ怪訝な顔をしているぼさぼさ頭を見て苦笑した。

「なあなあ雷蔵、こいつら一体何の話してるんだ?」
「うーん、まああれだね。僕達はもっといちゃいちゃしていいってことなんじゃない?」
「はぁ?」

 いまいち分かっていない八左ヱ門の鈍感さが愛しくて、雷蔵はとりあえず一目も憚らずに彼を抱き締めた。
 真っ赤になった八左ヱ門には申し訳ないと思ったけれど、歓声を上げたクラスメイト達の温かな応援に雷蔵は頬を染めながらも照れ臭げに笑った。

「よっし、お前らも手伝え! 俺達の聖域は俺達の手で守るんだ!」
「おおお!」

 司令官は立ち上がり、拳を握り締めて宣言した。
 副司令官が腕を上げて、何とも大げさに拍手した。
 でもってこの場にいた五年生の皆も乗せられて呼応した。
 ここに、五年による五年のための五年同盟が見事に締結されたのであった。




北風なんて目じゃないぜ!




「あいつらノリノリで楽しそうだなぁ。俺達も参加しねぇ?」
「それは本末転倒で三郎泣いちゃうよ。あ、でも八、知っている人でも僕以外と二人っきりになっちゃ駄目だからね!」
「三郎と兵助でも?」
「僕が妬いちゃうから駄目っ!」
「あ、そういう意味の話だったのか」
(だから心配なんだよね……)





おしまい

2009/03/11

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