+++ VS雪合戦 +++



 顔面に迫った雪の塊を、爆覇丸はほぼ反射的に打ち返してしまった。
 返された雪玉は、やって来た軌道を綺麗に沿っていった。

「へぶっ!」

 あまりにも剛速球だったため犯人は避けきれず、顔面に食らってしまった。
 周りにいた者が一瞬だけ口を開けて呆然としたが、倒れた者はそのままに、攻防戦は続行された。

「いい加減、受け取れこの馬鹿ー!」
「馬鹿者! お前たちこそいい加減に諦めろっ!」

 機獣丸の腕から乱射される雪玉をバリケードで回避し、爆覇丸は顔を出して怒鳴った。
 相対するのは同じく騎馬王衆の他三人。
 先程倒れたのは、動きの鈍かった破餓音丸だったりする。

 何故、彼等が屋敷前の広場でこんなことをしているかというと、先日知った異国の行事が原因だったりする。

 一番世話になっている奴に手作り菓子を渡すのだと、彼等の主は胸を張って言っていた。
 ちょっと捉え方が違うのでは、と爆覇丸は一人思っていたのだが、子供の夢を壊すまいと何も言わなかった。
 ところが何がどうなっているのか、他の三人は台所に駆け込み、それぞれ自作の菓子を爆覇丸の前に持ってきた。
 漂う異臭に、爆覇丸のこめかみが引き攣ったのは言うまでもない。


「大体なぁ! いっくら飯の準備がうまくなっても、菓子は難物だろうが! 一日やそこいらで食える物が作れるか、この戯け!」
「こっちが珍しく下手に出てやったのに、そこまでいちゃもんつけるのか! 上等だぁ!」

 さらに激しく実践さながらの殺気を放ちながら、雪投げは展開されていく。
 主が見れば、「これが本当の雪合戦か」と呆れて怒る気も失せてしまうことだろう。
 ――ちなみに、騎馬王衆を唯一諌められる騎馬王丸と元気丸の親子は、今頃屋内のこたつで仲良く丸くなっていることだろう。

「機獣大乱射ぁ!」
「猛禽絶刀波!」
「何のー! 爆覇槌撃!!」

 ヒートアップしていく戦い。
 いつの間にか、両者の後ろには避けた雪玉の山が出来上がってしまっている。
 互いに体力もそろそろ限界。決着の時は近かった。

「一人で……よく……やるな」
「鍛え方が違うのだ……鍛え方が……」

 ぜいぜいと息を吐きながら、最後まで一人立っていた猛禽丸と爆覇丸は睨み合う。
 バリケードのおかげで、残りの二人の姿までは見えない。
 すると、急に猛禽丸がしおらしい台詞を紡ぎ出した。

「やはりお前は強いな。我等をまとめるだけの腕があったことは……悔しいが認めてやろう」

 はっと爆覇丸は顔を上げた。
 ああも強引に菓子を贈りつけようとしたのは、彼等には自分で思うよりも好かれていたという事実だ。
 一番世話になっている人物として、爆覇丸が最初に上げられるほど。
 実は感謝されていたのだと、気付く。

 呆けたように爆覇丸は三人を凝視した。
 昔ならば馬鹿らしいと一喝するだけで終われたのに、今ではこんなくだらない痴話喧嘩まで始めてしまった。
 それはきっと、今が幸せだからで。

「あ、あのな、お前等……」

 急に照れ臭くなって、爆覇丸は木槌を手放した。もう止めよう、と言う為に。

「いまだ! 機獣丸、破餓音丸!」

 目聡く向こうが武器を取り落としたことに気付き、猛禽丸が号令をかけた。
 爆覇丸は目を丸くし、視界の端で猛禽丸が咄嗟に伏せたところを見た。そして、その背後から投げ上げられたものを。

「破餓音鎧突進!!」

 砲丸よろしく機獣丸に投げられた破餓音丸が、冬の冷たい空気を切り裂いた。



 タイミング良く玄関を開けた虚武羅丸は、後にこう証言している。
 「それは見事な弧だったな」と。



 結局、突然響いた轟音と揺れに驚いた親子に、騎馬王衆全員こってり説教を食らう羽目となった。
 しかし逆転勝利を決めた三人は、爆覇丸に無事菓子を渡した。
 次の日、爆覇丸は寝込んだらしいが。







 -Happy St. Valentine's Day!-




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爆覇×残り騎馬王衆でした。仲良しな彼等が大好きです。
ちゃっかりED後天宮なのは、もうしょうがないことですね(笑)
(2005/02/28)

バレンタイン企画でのお持ち帰りは終了しております。ありがとうございました!(03/08)



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