人はこれを、涙と呼ぶのですか。
人はこの痛みを、哀しみと呼ぶのですか。
・・・ 僕の手と君の手 ・・・
基地へと帰還するガンペリーの中で、キャプテンはじっと座っていた。
開かれた扉から見えるのは、夕暮れに溶け込んでいくネオトピアの景観。
あれほどまでの激闘を終えて帰って来た故郷は、驚くほど静かで平和だった。
世界は危機に陥った。
戦乱続きの異国に、やっと平定が訪れようとしていた。
それも束の間のことで、キャプテンは自分に科せられている罪を突き付けられた。
無自覚だとか、まだ発生していないことだと、自分に言い聞かせることは到底できることではなかった。
裏切り者と自分を罵った彼の、赤い瞳は今も脳裏から離れない。
己の手を見つめながら、握り開きを繰り返す。
冷たい機械の手。
握ったあの手も、同じ物でできていた。
メモリーに焦げのように貼り付いたままの映像。
落下していく身体。見開かれた双眸。宙を彷徨う、腕。
それらが堰切ったように流れ出した。
あの時は無我夢中だった。
シュウトが攫われて、仲間が窮地に陥って、誰もが傷付きながら戦っていた。
諦めることはしたくなかった。何度も呼びかけ、励まし続けた。
信じてくれた分だけ自分を信じることができる。それは、今まで係わった皆が教えてくれた大切なこと。
その心が、ソウルドライブを輝かせてくれた。
共に伸ばされたゼロと爆熱丸の手は、力強く支えになってくれた。
戻ってきたシュウトの手は、温かく光が満ちていた。
冷たくて暗い色を湛えていた、あの手とは違って。
キャプテンは握り締めた手を抱え上げ、額に押し付けた。
無性に心が熱くなり、目元がじんじんする。
かたかた震える腕の揺れは、見なくとも知れた。
一人になると何度も何度も込み上げてくるのだ。
あの時の、光景が。
また明日、とシュウトは言ってくれた。
けれど、一人で闇に飲み込まれていった彼に未来なんてあったのだろうか。
――否。
彼自身が、自分が歩んでしまう恐ろしい未来の一つの仮定なのだ。
露呈された罪を犯す、道の最果てなのだ。
君の手は冷たかった。
君は私の手をどう感じたのだろう。
恨みの篭った赤い目は、泣き出しそうに見えた。
嘘だと頑なに拒み、振り払われた手は最後まで伸ばされていた。
自分は、その手を最後まで握り締めておくことができなかった。
何事も諦めないと、決めていたのに。
思えば、初めて会った時からずっと彼は信号を送っていたような気がした。
キャプテンは引っ掛かりを感じたものの、目の前の出来事だけに精一杯で、先へ先へと伸ばしていた。
それが無意識の行いだとしても、自分を責めずにはいられない。
握り締めた自分の手を睨みつけ、キャプテンは今はもう遠い異国を想った。
彼が逝った、交わるはずのなかった次元の向こうを。
胸に落ちる不可解な空虚感。
自分にはまだ仲間がいる。遠く離れていても繋がっている絆がある。
それすらも断ち切られた彼の絶望は、どんなものだったのだろう。
あの時、強く握っていればよかった。
もっと早く、落ちていった身体を抱き締めてやればよかった。
振り払われても、諦めずに行けばよかったのに。
マドナッグ、と音も無くキャプテンはその名を紡ぐ。
まるで半身を何処かに置き忘れてきたような、虚しいものが胸に残った。
この先どんなことがあっても、薄ら寒いこの感覚は忘れることができないだろうと思った。
END.
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必死に戦った後、仲間と次々に別れ、そうして一人になった時の虚脱感。
皆と共にいた分だけ寂しくなる気持ちが出ていればいいです…。
きっと、キャプテンはマドナッグのことを忘れない。
(2005/03/09)
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