放置自転車よろしく何もない大地に、緑色のスクラップが転がっていた。
 そしてその操縦席に、これまたあちらこちらに頭をぶつけて傷だらけになった三人がいた。

「目が回ったどむー……」
「うっげぇぇ……気持ち悪いぜ」
「このまま俺らって放置されんのかぁ?」




[ 止中 ]



 命令どおりにビグ・ザムでブランベースを落としたまでは良かったが、その先は最悪の展開だった。
 自分たちが捨て駒にされたのだと気付くには十分なほどで。

「ああ……へこむぜ。そもそもお前がもうちょっとしっかりしてたらな」
「んだとコラ! そっくりそのまま返すぜ!」

 早速隣同士、ザクとグフが口喧嘩を始めた。
 普段ならよく見る光景なのだが、そこにちょっかいをかけてくるはずのドムが何もしてこない。
 疲れているせいもあって、二人はそろりとドムの席を眺めてみる。
 こういうときばかりは気が合う二人。
 ベルトを緩めて、照明の落ちた薄暗い内部に目を凝らした。


 いまだに頭がくらくらしていて意識が定かではないドムは、反対側で呻いていた。
 元から窮屈なシートの中に苦しげに身体を押し込めているため、呼吸もまともにできないのだろう。
 金魚鉢の魚のように、何度も口をぱくぱくと開け閉めしていた。

「ぎもじわるいどむぅぅー」

 いくら大好きな兵器の中であろうと人並みの感覚はあったらしく、ドムはしきりにそう呟く。
 こりゃ完全に酔ったな、と呆れ顔になったザクは、どうしようかとグフの方を見やった。
 するとじっとドムを見ていたグフが、突然ザクの方に向き直った。

 そして、ニヤリ、と笑ったのだった。



「ドム、しっかりしろ。背中でも擦ってやろうか?」
「んーお願いするドムー。グフもたまには良い奴ドム」

 ちゃっかり許可を貰ったグフが、器用に操縦席からするりと身を持ち上げる。
 完全に抜け出ることはできなかったが、それでも片方の腕がドムの服に触れることができた。
 暗闇に慣れた目には、ドムの姿をきっちりと捉えている。
 ドムは擦ってもらいやすい体勢になるため、少しだけグフの方に身体を傾けてきていた。

「ド、ドム、怪我はしてねぇか? 頭とか打ってねぇか?」

 その様子をばっちり見ていたザクが、慌ててドムに話しかける。
 ドムは少しだけ首を傾け、それから一瞬口元を苦痛に歪めた。どうやら頭を動かすと痛いらしい。

 再び呻いたドムに心配そうな声をかけ、ザクは足元から何故か修理箱を取り出した。

「てめぇは武器ばっかで怪我してばっかりだから、これを持ってきて正解だったぜ」
「お前最初っからその気だったのか?」

 ザクとの会話によって向こう側に身を乗り出してしまったドム。
 それにより、グフは微かに眉を顰めていた。
 少しだけ不貞腐れたような声で、ザクの取り出した箱を睨みつける。


 そもそも工作の苦手なダークアクシズ。
 普段から修理箱を持っている輩など、そうはいない。
 明らかにザクはこの展開――つまりはドムが怪我をすること――を虎視眈々と狙っていたに違いない。
 グフはそこまで考えると、ますます眉の皺を深めていった。


「ふっふっふ……出来が違うんだよ、出来が」
「あータンコブができてるみたいだドムー」

 一応、小声で喋り合っていた二人。
 会話が聞こえていないドムは、場にそぐわぬ呑気な様子でザクに頭を見せた。
 前頭葉を前に持ってくると必然に、めったに拝めない瞳が前髪の隙間からちらりと目に入る。
 それだけで幸せそうな顔になるザク。
 さらにその隣で怨念めいたオーラを立ち上らせているグフ。
 鈍感なドムは全く気付いた様子も無く、冷却剤を出すザクの指を何となく眺めている。

「じゃあ冷やすぜ」

 修理というより処置といった方が正しい治療だったが、それでも楽になったドムは安堵の息を吐いた。
 これが互いにザクだったりグフだったりすれば、感謝の礼の一つも言葉に出ないだろう。
 余計なお世話だと言わんばかりに睨み合うところだが、ドムの場合は違った。

「ありがとー。頭も冷えて、眩暈も何だか治ったドム」

 嬉しそうににっこりとした満面の笑顔。
 それを目の前にしたザクは、照れ臭そうに小声で返事をした。
 闇の中で赤くなっていく頬に気付かれたくなくて、素っ気なくそっぽを向いた。


 二人をおもしろくなさそうに黙って見ていたグフは、一応ドムに「もう平気か」と声をかけた。
 頷いたところを確認し、乗り出していた身を元に戻そうとする。
 その時、グフはふらりとした自分の視界に違和感を感じた。

「グフー?」
「あ、おい、大丈夫か?」

 焦ったようなドムの声に反応し、ザクもまたグフの様子を窺った。
 ぽかんとした表情で、グフは倒れるような体勢の自分に初めて気付いた。

「あ、へ?」

 どうやら頭に血が上り、急に動いたための貧血のようだ。
 さっと色の退いた顔をドムが心配そうに覗き込んでくる。零れそうなくらい大きな目と視線が合った。

 途端にどきりと鼓動が跳ねる。
 心の中で動揺しているグフを怪訝に思いながら、ドムが手を伸ばしてきた。
 席に足を取られたままの不安定な状態では立ち上がれないのだろうと気遣ってくれているだろう。


 しかし、残りの二人にとってそれどころの騒ぎではなかった。


(顔見れちゃった……手触っちゃった……ひ、貧血になって良かった!)
(こ、この! 何ておいしい――いや、羨ましい! この野郎、こっから出るまで首洗って待ってろ!)

 何だか邪な二人の気持ちを尻目に、ドムがグフを押しやり、ザクが恨みを込めながら引っ張り上げた。

 こうして三人は元の状態へ戻ったのであった。
 が、その心中は数分前とは全く違い、明るかったり華やいでいたり重々しかったりする。

「早く俺様の武器、取りに行きたいドムー。うーうーブッキー!」
「とりあえずそうだな……まずはマシンガンで行くか。それから久々にヒートホークでさっくりと……」
「たなぼたって本当にあるんだな。これからは神様も信じてやろうじゃないか」


 それぞれ好き勝手な妄想の世界へダイブする。
 そんな時間に、緑で丸い悪魔が終わりを告げたのであった。








 後日談。


「嫌だー! あいつらを絶対二人っきりにすんなよー! したら怨むぞ!」

 ずるずると白い部屋へ連れて行かれるザクを、グフは哀れみながらも楽しげに見送っていた。
 「とりあえず、今回は俺の勝ちだな」と。





 -END-




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ZGDトリオでございます。しかも(ザク+グフ)→ドムでお贈りいたしました…。
まあ、何と言いますか。またマイナーですみません;
本編のビグ・ザム強襲後の、砂漠にめり込んでから長官が来るまでの間だと思って下さい(十分妄想)
三馬鹿愛。ビグ・ザムネタは外せません(笑)

(2005/01/08)



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