「キャプテン、一緒に見回りに行きましょう!」
「キャプテン、この間の解析結果なのだが……」
同じ相手に同時に声をかけてしまえば気まずいのは普通だろう。
けれど、それが彼らの場合は――。
「邪魔するなマドナッグ! 俺は前から約束をしてだなぁ!!」
「ふん、こちらの方が優先任務だ。引っ込め雑魚」
イーグルは十字路の右側を睨みつけ、マドナッグは左側を睨みつける。目的の人はきょとんとしてそんな二人を振り返った。
そして、良い笑顔を浮かべた。
「仲が良いのだな、二人とも」
似ている二人
悲鳴のような否定を重ねながら、素早く動いたのはイーグルだった。
キャプテンの側まで走りより、逞しい腕を取る。
「先々週から約束していたじゃないですか! 見回りに行きましょうよー」
嘘ではない。
飛行テストも兼ねたイーグルの見回りは、常日頃行なわれている。飛べるようになったキャプテンとも何度か一緒に行っていた(イーグルとしては空中デートと言いたいらしい。勿論、キャプテンには通じていない)
先々週に一応約束まで取り付けておいたのだが、その約束の日である次の週――つまり先週は、シュウト達と共に他の世界へ行かなくてはいけなくなった。
突然の出動であったが、涙を呑んでイーグルはキャプテンを見送っていた。
というわけで。
約束を延期されてしまっていたわけだから、これ以上待つのはイーグルとしてはとても焦れったいのだ。
ただでさえ、特別任務を背負って異世界へ向かわなければいけないキャプテンを待つ身である。
好いている相手が自分よりも他の仲間達といる時間の方が長いというだけで、イーグルとしては焼餅を焼かずにはいられない。
それがシュウト達ならばまだ許せた。
けれども。
――マドナッグは、無理だ。
人づてにでしか知り得ない、二人の因縁を知ってしまったから。
彼がキャプテンに惹かれた理由も、そして誰からも愛されるその人をそれでも好きだと言える覚悟の深さも、自分なんかが想うものよりも強くて。
イーグルがキャプテンと出会うずっと昔――それこそ二人が実際に生まれる前から、愛憎とも言える感情を抱いてマドナッグは生きてきた。
孤独な暗闇の中で、たった一人世界を睨みつけながら。
そんなマドナッグがようやく得ることの出来た温かな世界を、イーグルとて壊したいとは思わない。
けれど、その想いの強さを知っているからこそ、本当にキャプテンを取られてしまうのではないかという不安がいつも胸にあるのだ。
彼と想いを通じ合わせたのは、自分なのに。
死にかけたマドナッグを助けたキャプテンは、それこそまるで本当の兄弟のように、失くした時間を埋めるよう彼と共にいる。
キャプテンの優しさが好きだけれども。マドナッグの哀しさは分かるけれども。
どうして俺を見てくれないの、とイーグルの独白が回路の奥で喚き騒ぐ。
こんなもの、醜いだけの嫉妬でしかないというのに。
むっつりと黙ってしまったイーグルを見て、キャプテンが困ったように目を伏せた。
どうしようか、と視線をうろつかせている。
それを横目で見ながら、マドナッグは少しばかり溜息を吐き出した。
犬のように吼えて食って掛かってくるイーグルに、ついつい大人気なく反論してしまうのはキャプテンを挟んでいるからだ。
イーグルがキャプテンのことを好きなのは、見てすぐに分かった。
その目は、かつての自分のように輝いていて。
憧れが恋に変わることは、きっと、誰よりもマドナッグが良く知っている。
――それからすぐに裏切りを知って憎悪に切り替わったのだけれども。
未来で、生まれたての自分などよりもキャプテンに近かったイーグル。
かつては羨望の眼差しでしか、二人の姿を見ることは出来なかったのに、今はこうして手が届く。
だからこそ、微かな希望が胸を刺す。
今ならキャプテンを好きになってもいいのかもしれない。今ならイーグルに勝てるのかもしれない。
そう思ってしまうからこそ、イーグルと出会うといつだって喧嘩腰になってしまうのだ。
どれだけ彼がキャプテンを信頼して、愛して、慈しんできたのか、同じ想い人を持っているからこそ痛いほど理解できるのに。
ようやく繋がれた手を放されたくない、といつかに捨てた弱い自分が泣き叫んでいる。
こんなもの、浅ましいだけの感情だというのに。
自分の未練がましい想いに嘆息を吐き出し、それからマドナッグは今来た道を引き返した。
驚き目を瞠るイーグルと困惑しているキャプテンに顔だけ振り向かせ、マドナッグは肩を竦めた。
「――キャプテン、資料は後で転送しておく」
行けばいい、と暗に告げたマドナッグに、キャプテンが再び笑みを浮かべた。
少しだけ赤らんだ顔を隠すため、マドナッグは顔をそっぽへ向けた。何よりも彼の笑顔が好きだから、それはそれで嬉しかった。
イーグルが呆然としているのを背中で感じていたが、それは黙殺。
キャプテンが彼のことを、きっと、自分よりも好きだから。だから今日は譲歩してやるんだと、お決まりの表情で振り返ってやる。
「お前になんか渡すもんかっ!」
「精々喚いていろ、番犬」
にやりと笑んだマドナッグに、イーグルが憤慨してキャプテンを引き寄せた。思わずといった行為に気付いているのだかいないのだか凛々しく思える顔付きで、マドナッグを睨みつけてくる。
余裕の無い姿は、まるで自分。
だけどもっと清々しくて、眩しい青いさが窺える。
彼が自分の腕の中にいる者に気付き、恥ずかしくなるのはきっとすぐだ。
その微笑ましくも羨ましい光景を思い浮かべながら、マドナッグは呟く。
「ふん……ひよっこに負けるものか」
本当は、キャプテンだってイーグルのことが無自覚で好きなのだと分かっているけれど。悔しかったりもするけれど。
まだまだスタートは切ったばかりなのだ。
今度自分も約束取り付けておこう、などと思いながらマドナッグは歩いていく。
とりあえず、部屋に帰ったらイーグルの調整日までに改造計画を作っておくかと、ねちっこい逆襲を考えながらも。
去って行ったマドナッグの予想通り、慌ててイーグルはキャプテンを抱き締めていた手を外そうとした。
「? どうしたんだ、イーグル?」
けれど何だか名残惜しげに上目遣いに見上げられ、イーグルは手を硬直させた。
全身の熱が上がっていくことを感じる。
抱き締めたのは初めてじゃないのに。マドナッグに見られたせいもあるのだろうか。
そうやって思い出せば、先程の嘲笑が過ぎるけれど。
「負けないぜ!」
若者は対抗心を燃やし、嫉妬心をバネにする。
取られると不安に思うばかりでは、守りたいものを守れないから。一緒にいられない時間は多いかもしれないけれど、それよりも輝く時間を作ればいいだけ。
持ち前のポジティブシンキングで考え直したイーグルは、とりあえず誰も廊下を通らないうちに腕の中の憧れの人以上恋人未満な彼へと、精一杯の口付けを送った。
-END-
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放送三周年リク企画でキャプテン争奪戦的イーキャプ、マド付きでした。
…っていうか結構文章の組み立てが酷いです;スランプ??
どうしてもマドナッグ贔屓になってしまうのは性でしょうか。
若干暗くてゴメンナサイ。
(2007/02/28)
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