「お前のことが好きなんだっ!!」


 青春真っ盛りのような青臭い告白が、天宮の晴天に響き渡った。
 ある者は気恥ずかしげに顔を背け、ある者は楽しげに口元を歪ませる。


 皆が聞いているということに気付いていないのは、当の二人だけ。



 >> 只白中 << 



 天宮を旅する一行は、現在川辺で休憩中。
 久々に文句を言われずに休むことができ、ザクとグフは今日も(互いを睨みつけ合いながら)ドムの武器磨きに付き合ってやっている。
 錆だらけのビグ・ザムはザコ達に整備させ、彼らは元気丸達とは少し離れた河川敷で仰向けになっていた。

「あああこの感触が気持ち悪ぃ……! 本当にこの国は自然だらけでぞっとするな」

 神経質なグフは背中に当たる感触に、思わず飛び退いて悲鳴を上げた。
 それをザクはさも可笑しそうに笑い、自分は変わらず寝転がっていた。
 曰く、お花ちゃんと触れ合っていたため慣れたというか、もう触っても平気なのだという。

「てめぇはもう機械じゃねぇんじゃねぇか?」
「んなこたぁねぇ。でも、苦手な弱点がなくなるってのはいい事だろ?」

 何となく悔しくて憎まれ口を叩いてみれば、ザクは鼻で笑った。
 ぐっと詰まってしまったグフは、何となく視線を川の方へと向ける。
 ドムは楽しそうに水辺に座り込み、お気に入りのバズーカを磨いていた。二人より大きいドムは排熱量が多いため、休む時はなるべく涼しい場所にいる。

 彼の背中を眺めながら、口元を緩める二人。
 不満たらたらな現在の状況だが、ドムが楽しそうならそれでもいいか、と最近受け入れつつある。
 元気丸達が特別嫌いなわけではないし、上司が居なくなった分、随分と気楽に生きていけている。

 そんなザクとグフが、今一番不満としていることはただ一つ。

((やっぱり、こいつが邪魔することだろ!))

 互いに同じことを思いながら、二人はドムから視線を逸らして睨み合う。

 いつもいつもいつも。

 ザクはグフに妨害され、グフはザクに妨害され。
 二人の想い人が同じなだけに、その戦いは飽くなく続いていた。
 いつでも傍にドムがいるため、大っぴらな喧嘩は出来ないが水面下での攻防は何度も最高潮を迎えていたことがあった。

「もういっそ、夜這いでも」
待て待て待て!! 尊重って言葉知っているか!?」 

 あんまりにも進展できないので、悶々とした片方がそう言えばもう片方が必死で止める。この形が今では定着しつつある。
 ある意味では仲の良い二人。ドムもまた例外なく、そんな二人を大の仲良しなのだと勘違いしている。
 その脳みそ足りてない具合が可愛いのだが、誤解は勘弁だ、というのがザクとグフの本音だ。

 とはいっても。

 流石にそろそろ決着を付けたいとは双方思っている。
 何せ、二人がドムに再会してから既に一年が過ぎている。それより前から想っている彼らにとって、始終共にいるくせに告白すら出来ていないこの状況ははっきりいって生殺しもいいところである。
 ――告白してもドムがきちんと理解してくれるかは、また別問題なのだが。

「……俺、限界かもしれない」
「ああ……同意見だ」

 蒸し暑い大気の中、二人分の重苦しい溜息が吐き出された。

「何が限界ドムー?」

 俯いた二人の上に、影が落ちる。
 降ってきた声に慌てて顔を上げると、大きな瞳を丸く開いているドムがいつの間にかそこに立っていた。

「いいいいや、何でもないぞっ! な、グフ?」
「そそそそうだとも! なぁザク?」

 きょとんと見返してくる邪気の無い目に、先程まで考えていた不埒なことが見透かされそうで二人は挙動不審な様子で首を振る。
 声を揃えたザクとグフに、ドムは首を傾げる。少々不満気だ。

「ザクもグフも本当に仲いい……。寂しいドム」

 困ったような声を上げるドムに、二人はやや憤慨気味で立ち上がった。

「「は!? 何でこいつと!?」」

 見事に揃ったユニゾンにますますドムは、哀しいような寂しいような奇妙な表情を浮かべた。
 あ、と思って二人は口を閉ざした。
 何か言うたびハモっていては事態は収まらないだろうと、無い頭でも分かった。

 ザクは頬を掻きながら、グフは足元に視線をうろつかせながら色々な言い訳を考えてみる。
 しかし、今までの工程を思えば、何を言ってもドムにうまくは伝わらないだろうと知れた。

「……ドム、邪魔?」

 黙り込んでしまった二人をどう思ったのか、ぽつりとドムがそう零した。
 予想もしていなかった言葉にグフが顔を上げた。するとザクが顔を赤くして起こったような顔付きになっているのが目に入る。

「馬鹿か! んなことあるわけねぇだろ!?」
「でもでも……ずっとザクとグフ、二人でいっつも内緒話してる」

 勇んで反論したザクだが、事実は事実なので一瞬たじろいだ。
 ドムは不安そうに彼を眺め、それからグフの方へと視線を転じる。

「ザクの言う通りだぜ。俺達がその、同じ話をしているのはだな」

 ここまで来たら言うべきか、グフが言葉に窮しながら口をもごもごさせた。
 本人を目の前にしていうのはやはり気恥ずかしく、けれどもこれ以上ドムに哀しそうな顔をさせたくもなく、どうすればいいだろうという逡巡だった。
 助けを求めるようにザクを横目で見ようとしたグフは、それよりも一瞬早く飛び出した発言に呆然とした。

「寝ても覚めてもお前のことを考えているからだっ!」


 ――言っちゃった。


 グフは一気に汗を流し、全身を赤らめる。
 元から赤いザクは気にならなくていいな、と場違いな感想を抱いた。

 ドムは急には理解が出来なかったのだろう、逆方向に首を傾げて見せた。
 その場の勢いに乗ってしまったザクは、もうこのままでいても埒が明かないと思ったのか、上気した顔のままでグフを見た。
 腹を括ったらしい。
 どうせなら最後まで言ってやろうと、グフはその視線に対して頷いた。

「「俺達は、お前のことが好きなんだよ!」」

 いい加減に気づけっ!

 恥ずかしさからか、形振り構っているられる状況ではないせいか、半ば八つ当たりのように二人は叫んだ。
 最後まで、綺麗なハモリだった。








「あっちーな……」
「ああ、熱いな……」

 少し離れた河川敷で、三人の姿を眺めていた元気丸は半眼で溜息を吐き出す。
 虚武羅丸も呆れた様子でそれを眺め、それから整備中のビク・ザムの方を見やった。
 何人かのザコブッシ達が、青臭さに悶え転がっている。
 そしてザコソルジャー達は既に前から知っていたのか、何故か二箇所で――ザッパー派とグラップラー派なのだろう――胴上げが行なわれていた。皆、泣きながら喜びの声を上げている。

「あいつ等の三角関係って公式なんだなぁ」

 可笑しげにしみじみと呟いた主に、何となく頭が痛くなり、虚武羅丸は困ったように空を見上げた。


 真っ青な空に真っ白な雲。
 珍しく戦闘もない穏やかな一日。

 今日は絶好の告白日和。周りには野次馬だらけ。


 知らないのは、本人達だけ。





 -END-




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放送三周年リク企画でザクVSグフ→ドム。三角関係シリーズの続編と相成りました。
ようやくここまで来た三人…。何だか青春やっています。
最終的にどっちにくっつくのか、よく分かりません。むしろ永遠に三角関係(苦笑)
(2007/02/21)


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