愛していた。
本当は、誰よりもずっと。
罪を犯した私に訪れた罰は、きっと。
罪 と 罰
人間を想うことが罪なのだとしたら、同種族を想うこともきっと罪でしかない。
そもそも性別が不確かな、精霊と同じ組織で作られているこの身体に、恋など不要なものでしかない。
心が男であろうが女であろうが、使命を帯びて生まれてくる身にそんなものは必要ないのだ。
――だから、これは不毛だ。
ディードが彼女を想うことは、男が女を想うことと同義ではあったけれども。
ディードが彼を想うことは、男が女を想うことと変わりがなかったけれども。
優しくて歪で、壊れるまで耐え続けたことに何の意味があったのだろう。
どうせそれは世界から、いずれ罰を受けるだろう浅はかな気持ちでしかなかった。
けれど。
私はそれを、捨て切れなくて。
「……だから」
鎌を握り締める手を強め、仮面越しに白い翼を睨みつける。
綺麗な姿。綺麗な心。光に恩寵された、騎士。
自分とは違う。全く違う。
その事実が、私の内側を鈍く突き刺し続ける。
交わってはならなかったのだと、大気の精が嘲笑ったような気がした。
「だから、私は世界を壊すと決めたのだ……」
独り言のように呟いた言葉は、彼の元まで届いただろうか。
ゼロは銀翼を羽ばたかせながら、懇願するような声を漏らした。哀しいディードの想いが浮上してくるから、聞きたくはなかった。
「私は、お前が好きだと言ってくれた時、とても幸福だったぞ? その事実だけでは駄目なのか?!」
「黙れ! 世迷言を言うな!」
剣と鎌が何度もせめぎ合い、互いのマナが上昇する。
冷静な自分はもういないのだと、思う。
ここにいるのは隠し続けた仮面が剥がれてしまった愚かな男がいるだけ。愛しいのだと抱き締めた人と、刃を交える結果にしか終われない者がいるだけ。
ゼロは泣き出しそうに青い瞳を歪めている。
もっと自分を、憎んでくれればいいのに。
寂しがり屋な彼のことだから、今でもあの頃の記憶を大切に想っていてくれてることは容易に知れる。
彼にとうとう、告白してしまったのはいつの頃だっただろうか。
彼女に言えなかったものをまるで身代わりのように吐き出してしまったのに、ゼロはディードを受け入れた。
孤独には耐えられなかったから、温もりを求めてゼロを抱いた。
けれども、彼は笑っていつもディードを抱き返してくれる。
そのことに、私はどんなに救われていただろう。
彼女を手に入れて、国も手に入れて。
だけれどもゼロのいなくなった世界に、とてつもない虚脱感を感じた。
ディードだった頃は苦しかった。けれど、温かかった。
デスサイズになった今は、虚しかった。
堕ちた先の闇の底は、どんな場所よりも寒くて。
これが罰なのか、と明けない夜に憎しみを込めた視線を向けた。
もう自分には彼女だけを想うことも、裏切ってしまった彼を抱き締める資格も失ったのだ。
それは初めて知った、本当の絶望だった。
「ディード!」
ああ、泣かないでゼロ。
笑っているお前が好きだった。静かな時を、穏やかな日々を、姫を想う薄汚い気持ちなぞ無かったかのように過ごせたのは、きっとお前が一緒にいてくれたから。
まだ戻れるのではないかと期待してしまいそうになるから、どうか、泣かないでいて欲しい。
「もう止めてくれ、ディードぉぉ!!」
――もう、私を止めて欲しい。ゼロ。
彼の刃が肩口から食い込んだ。
涙の雫が乱反射して、澄んだ宝石のように眩しかった。
「リリ……」
ごめん、とあの少女へと謝罪を送るのは、自身の気持ちを見誤って巻き込んだことへの悔恨。
女である彼女を愛したのだと、偽って。
その禁忌さえ飛び越えてしまえば、きっと彼のことも手に入るのだと慢心して。
この手には何も残らなかった。
倒れていく自分から、精霊が剥がされて。
あとは逆様に地獄へと落ちて行くだけ。
私は、泣いている銀色の天使に向かって笑った。ディードのように、優しく笑えただろうかと思いながらも精一杯。
「ゼロ、」
なかないで。わらっていて。
声にならない言葉は伝わったのだろうか。
涙を流しながら瞠目したゼロに、私は両手を伸ばす。いつの日にか、彼を抱き締めた時のように。
私は幸せだよ。
愛しい人の手に下された罰ならば、喜んで受け入れる。
間違いを正してくれると、お前の正義を信じていたから。
「お前を、愛してる――……」
誰よりも、きっと。
-END-
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放送三周年リク企画でデスゼロ。切ない系で両想い、でした。
擦れ違いが主なこの二人ですが、真面目に愛していると語らせたのはこれが初めてかも。
デスサイズの独白ってどうしても自嘲じみてしまって痛いです。
(2007/02/20)
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