ちょっと危険物のためワンクッション。
性的表現含みます。
- R E T R O -
赤い舌に誘われるかのように、唇を合わせる。
子供同士が捧げるバードキスとはまるで違う、生々しいくぐもった卑猥な音。
それさえも今の熱を上げるだけで。
障害にもなりはしない。
拒むことを決してしない、小さな口はまろやかで甘く感じた。
喉からあふれ出す、蕩けそうな歌声も、苦しげに歪む表情も全てが毒だ。
惹かれて、戻ってこれなくなりそう。
この腕に納められた美しい悪魔に魅入られたのだ。
常に取り繕い、玲瓏な壁で囲まれているその仮面は、今では粉々に砕けた。
細められた綺麗な眼から、ぼろぼろと大粒の涙の真珠が零れ落ちる。
それさえも勿体無いと思う。流れ落ちてしまう前に、綺麗に舐めとる。その体液も全て自分の物だと言うように。
絶望を知り、暗闇に生きることを選んだのだ。
自分だけが潔癖なのだとは言わせない。ここに堕ちてくるのが、運命なのだ。
無意識に逃げようとする身体を押さえつけ、縮こまる舌を絡めとる。
熱い吐息が頬を掠めれば、それだけでこの身は歓喜に打ち震えている。
救いようのないほどに、自分は目の前の生贄を所有したくてしょうがないらしい。
たとえ破滅への道を辿るとしても。先の見えない橋など、恐れる意味さえ見当たらない。
元より何も無かったこの腕の中に、たった一つだけでも自分の物が欲しいのだ。
生きてきた証として。今ここに自らの命が輝いていることの証明として。
「ふっ……ふふ……」
悪魔は嘲笑う。虚空を見つめる瞳は、遠くをただ映すのみ。
人形のように垂れ下がった腕は、決して自分を求めることは無いのだと知らしめるよう。
さらに力強く掻き抱き、無理やりにでもこちらの世界に引き止める。
それが快楽であろうが、痛覚であろうが、何でも良かった。
同じ世界にあるというのに、別の夢を見ることは許さない。
「愚かしい」
一線を越えれば妖艶に微笑むだけの唇を、再び閉ざす。
何もかも見通しているような声音は嫌いだ。跪いているはずなのに、見下すような視線が気に食わない。
本能的な感情は沸点を越えて、縺れ合うように沈む。
言葉なんぞ紡げないように、小さな喉からは悲鳴じみた声を出させた。
ぜんまい仕掛けのブリキ人形が、カタカタと動かなくなる瞬間の錆び付いた螺子みたく。
汗ばんだ背中を抱え上げ、くたりと仰け反る白い胸に口を寄せる。
所有の印を余す所無く散らばせ、そうしてやっと落ち着きを取り戻せるような気がした。
意識を飛ばした生贄は、長い髪を茨のように絡ませて横たわる。
百年の眠りについた御伽噺の姫君の如く。
青白い肌をそのままに、静かに静かに瞼を伏せたまま。静寂の中で聞こえてくるのは小さな吐息のみ。
「……ああ、お前はまた、俺を哂うか」
誰の返事も返らない場所で、皺くちゃなシーツをじっと見下ろす。
涙なんて出ない。
これが二人で決めた道。
-END-
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T→Dなトルデス。暗い……。
自分が愚かだと気付きながらも、そんな自分を捨てられない。
そんな二人の微妙な間柄。
(2005/03/09)