ゆっくりと聞こえてくる破滅音。
 君は夢遊病者のように、空っぽなまま嘲笑う。

 月に浮かれた、道化師の如く。



+++Moon Light.



「デスサイズ」

 呼ばれ振り返る、黒い死神。
 表情の伺えぬ仮面から、唯一見ることが出来るのは歪んだ口元だけ。

「あれらに、何か感慨は浮かぶものか?」

「まさか。私を誰だと思っているのですか」

 どちらも無感情な言葉と声を連ね、互いに嘲笑うように存在する。
 共通しているのは、自分の目的のためならば手段を選ばぬ非常な心。
 たった、それだけ。

 デスサイズは、指された物を無言で見つめた。
 それを横目でガーベラは睨みつけていた。

 溶鉱炉の傍に山となって打ち捨てられている、見覚えのある鎧の数々。
 自らが作り出した魔方陣の上に乗り、時折デスサイズはじっと眺めることがあった。
 それは故郷への念か。裏切ったことに対する後悔なのか。
 もしくは、計画の礎になったことに感謝しているのか。
 ガーベラにはよく分からなかった。

「あの騎士たちは嫌いだ。当たり前のように、人間風情の傍らにいた」

「ガーベラ殿」

 吐き捨てるように本音を露呈してしまえば、デスサイズは少し咎めを含んだような声を出した。
 少し苦しげで、冷たくて、なおかつ自嘲が滲む。そんな透った声音は心地良かった。

 デスサイズは投げつけるように視線を上げていたが、しばらくしてから諦めたように顔を伏せた。
 何も言わなくなった彼に、さらに叩きつけるような言葉を放つ。
 何処かで残っている、綺麗な良心を粉々に打ち砕きたくて。

「全てから温もりや柔らかさが消えればいい。我々には、鉄と油の臭いがお似合いだ」

「ガーベラ殿っ……」

 なおも言い募るデスサイズに舌打ちをし、ガーベラはゆっくりと近づいた。
 真っ黒な外套に隠されている白く細い腕を無理やり引っ張り、自分のリフトの上に乗せる。
 途端に禍々しい魔方陣が消え、広間には無機物だけが居残った。

「お前はどっちがいい?」

 彼は、答えない。

「お前はいつ“こちら側”に来るのだ」

 彼は、答えない。




「世界が全部、鉄と油になれば、きっと」

 デスサイズは、答えない。




「……早く、お前もこちらに来い」

 まるで愛を孕んだような睦言のように。
 ガーベラは何度も何度も繰り返す。

 そのたびに壊れていく、脆い死神の姿を笑いながら。

 やがて伸ばされるであろう二つの腕を思い浮かべながら。




「……早く、貴女に会いたい」

 それは愛を孕んだ睦言のように。
 デスサイズは何度も何度も繰り返す。

 月明かりの下で、ガーベラの言葉の一つ一つを消し去るために。

 やがて手に入る温もりに、助けを求める自分の姿を思い描きながら。





 無機物を望む彼と、有機物になりたい彼は。

 どちらにしろ、本当に欲しいものは手に入らなかった。



-END-


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ガーベラ様の一人称と三人称がどうだったか曖昧…。
全然報われない二人が好きです。でもどちらかというとガベ→デス?
ある意味、二人は対極の立場であったのだなと書いているうちに思いました。
この小説、デス様は普通っぽく、ガベ様は変態ですね;
時間的に騎馬王丸様が来る直前っぽいです。あくまでぽい。
(2004/10/31)



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