※注意
この小説は、SDGFゲーム「次元海賊デ・スカール」のネタを使用しています。
が、あんまり公式設定に則っていないので問題はないと思います。
ちょっとでもネタバレするのが嫌な方は読まない方がいいかも。
さらに、キャラが結構壊れていますのでご了承を。ギャグですから!
- M I R R O R -
今日もまた陰湿な風の吹く、暗闇の王国ラクロア。
空の色はいつまでも晴れることはなく、重苦しい灰色で彩られていた。
そんな寂しい風景とは対照的に、明るい声が城の廊下に響き渡ってた。
「るんたったー♪ るんたったー♪」
白い鎧がかちかちと音を鳴らし、声の主はかなり上機嫌でスキップしながら歩いていた。
途中の曲がり角では、華麗なターンを二回繰り返し、そうして城内を迷うことなくどんどんと進んでいった。
「トレビアーン!」
くるっと回り、動作が止まる。趣味の悪い――失礼。少しきつい紫色のマントが連動して揺れ、ふわりと地についた。
寸分の狂いも無く止まれたことに、胸が歓喜で打ち震える。
心で小さなガッツポーズをするといつもどおりの体勢に居直る。
変わり身の早いトールギスを、呆れた様子でデスサイズが見ていた。
「ふっふっふ……どうだデスサイズ。美しすぎて声も出まい!」
どこから取り出したのか、金に輝くグリフォンの羽を手ににやりと笑う。
そしてビシィと羽をデスサイズに向けて、期待に満ちた双眸で見つめ返してきた。
ステルスのままのデスサイズがゆっくりと目を細めるが、そこから吐き出された言葉はどこまでも冷たかった。
「バナナ刺さっていますよ」
「何ぃぃぃぃぃぃ!!!!?」
今までの完璧な(自分ではそう思っている)立ち振る舞いを無にして、トールギスは豪速で元来た道を戻っていった。
好きな人の側には最高のコンディションでいたかった彼の涙ぐましい想いも、絶望の前には脆くも崩れ去ったのであった。
そしてバナナを抜き終えて、トールギスはめげずに再びデスサイズの部屋に来ていた。
勝手に自分で飾っている大きな姿見――これもまた悪趣味な装飾がごてごてと付いている――の前を陣取り、のんびりと寛いでいる。
この姿見を作った理由にも、デスサイズは溜息を吐いたものだった。
「ところで何か用事でも? わざわざ貴方の方から来るなんて」
「用が無くてはいけないか?」
質問を質問で返してくるトールギスの表情は、そりゃあもう弛みまくっているの何のって。
デスサイズの背中に微かな悪寒が走った。常日頃の自分の行動には何の念頭もいれなかったのだが。
「お前がこっちに来ていると聞いたから、こうしてわざわざ会いに来てやったのだ」
さも「嬉しいだろう?」と確信的に尋ねてくるトールギスの自信はどこから来るものなのか。
はたまたデスサイズも、常日頃吐いている姫への愛の言葉を念頭には入れず、トールギスに呆れていた。
どっちもどっちだとつっこめる者は、悲しいことにラクロアにはもう残っていない。
「離れていたのは別にたったの三日でしょう。いつもしつこく呼び戻すくせに」
「何を言う。この丸っこいふよふよをこの目で見られないなんて、毎日それはそれはしんどいんだぞ!」
何を言いだすんですか、この人は。
そうやって常日頃の(以下省略)、急に真面目にデスサイズは心中でつっこみを入れていた。
ちなみにトールギスの自室には、本人自作の手縫い人形が置いてあったりする。
実は寂しがり屋なトールギス。
ヴァイエイトとメリクリウス、グリフォンなども一緒に作ってある。
もちろん、当のデスサイズはそんなこと知らなかった。知りたくもなかった。
「ところで何でラクロアに帰ってきたのだ? まだダークアクシズの方に用事があったはずだろう」
「ええまあ。少しだけ胸騒ぎがしたもので……」
トールギスが立ち上がり、デスサイズの横にある窓辺まで歩み寄った。
今度は本当に普通の会話が始まり、ほっとしたのもつかの間のことだった。
「この私に会いたくなったのだろう?」
「寝言は寝てから言って下さい」
デスサイズの反撃を完璧にスルーして、ふとトールギスは外を眺めた。
鈍い雲の間から、見慣れないものが現れた。
赤と青の色彩で作られた巨大な輪。その中央には全てを吸い込むような、大きな目玉の飾りが付いている。
「あれは……?」
怪訝に思ったデスサイズも窓から空を見上げる。少しだけ瞠目した様子を見せたが、すぐに落ち着いた。
「ダークアクシズの資料にありましたよ。世界を吸い取る、次元海賊という輩のようです」
トールギスは弾かれたように顔を上げた。言葉の意味を正確に理解したのだろう。
現在のラクロアはトールギスの物だ。その過程が略奪であれ裏切りであれ、今ある真実なのだ。
その国を盗み取られるのは、自身のプライドがまず許さない。
「デスサイズ! 魔方陣を描け!」
「何処へ行くのですか、トールギス?」
颯爽と剣を取り出したトールギスの命に従い、次元を超える陣を宙に描き出していく。
その傍らでデスサイズは主の行動に首を傾げていた。
「無論、阻止してやるのさ。俺のものを取ろうなどと百年早いわっ!」
「トールギス……」
国には姫の石像も残されているし、まだ解明していない古文書がたくさんある。
面倒だと思いつつも、それは阻止すべき相手だとデスサイズは理解していた。
そこに降ってきたトールギスの台詞に、素直に感動を覚えたデスサイズだったが、やはり彼は一言余計だった。
「やっと手に入れた二人っきりの愛の巣を邪魔されてなるものかぁぁ!」
数分後、二人は暗い洞穴の中にいた。
きらきらと鮮やかな光を放つ鉱石が、あちらこちらから突き出ている。
そこにはぼんやりと薄明かりを湛えるデスサイズの姿と、見事に顔だけ狙われてぼこぼこになっているトールギスが映っていた。
「どうやら微妙に吸われ始めているようですね」
「……ほう。いい度胸だ。奥へと進むとしようか」
そろそろと移動を開始した直後、見覚えのある影が目の前を過ぎ去った。
息を呑み、トールギスが先導して走り出す。浮いているデスサイズは、音も無くその背を追いかけていった。
「トールギス。貴方、身体は何ともありませんか?」
「心配してくれるのか? やっぱりあれは照れ隠しだったのだな」
顔のことじゃありません、と鎌の柄で殴り飛ばし、デスサイズは辺りを見回した。
先程よりは広い場所に出た。どうやらこの洞窟は、ラクロアの谷にいくつか点在する横穴を真似て造られたようだ。
しかし感じる空気には、精霊の気配が何も感じられない。
ラクロアでは纏わりついてくるンンの群れも、ここにはなかった。
そっくりではあるが、徹底的に何か違う。輪の中の次元は、舞台の書割のように現実味を帯びていないのだ。
「まだ完全に吸い取られていないから、影響は出ていないようですねぇ」
暗闇の向こうを眺めながら、デスサイズは呟いた。つられてトールギスも視線をそちらに定めた。
影が、蠢いている。
良く見知った姿が今は黒く塗りつぶされていた。
「……俺か?」
唖然と口を開いたまま、トールギスは指を指した。デスサイズが微かに笑う。
「残念ながら。世界だけじゃなくてそこに住む者もコピーされるみたいですね」
「呑気に言うな! 来るぞっ」
影のトールギス――いや、写されたものだから鏡のトールギスと言えばいいのだろうか――が何か詠唱を始めていた。
内部に入った者はすぐに排除するようにプログラムされているのだろう。ひしひしと殺気が伝わってくる。
トールギスはデスサイズを庇うように先頭に立ち、剣で相手を断ち切った。
しかし、それは残像だった。相手は素早く横へと滑るように移動して、あっという間に間合いをとった。
「小癪なっ!」
剣を振った遠心力でそのまま振り返ると、その数秒の間に詠唱は完了していた。
「ラクロ――」「で、デスサイズ!!??」
横から割り込んできたどでかい声に驚き、鏡のトールギスは体勢を一瞬崩した。勿論、技の発動も途中で遮られた。
突然名前を呼ばれたデスサイズといえば、二人のトールギスを交互に眺めて、それから最後に本物のトールギスに向き直った。
「何ですか?」
「い、いや、お前じゃなくて、あいつの方だ! あいつの声がお前と同じだ!」
混乱した様子で鏡のトールギスを指差す主に、軽く呆れながらも同意をしてやる。
「私だって吸われているのでしょう。どうやらこれは、貴方の姿と私の声を借りているようですね」
敵対者は再び詠唱を重ね、聞き慣れたデスサイズの声音で魔法を紡ぐ。
今度は聞き間違えなどとは言えなかった。耳をくすぐるような低音が、暗い洞窟によく響いた。
冷や汗を今までかいていたトールギスだったが、確認するなり一気に顔が紅潮して剣を握る拳さえも震えている。
尋常ではない彼の様子に、さすがのデスサイズもぎょっとする。
「どうしました? 今になって体調が――」
「……美しい……」
「は?」
ぽつりとトールギスが零した、馴染みのある言葉に思わず気の抜けた声が出てしまった。
そんなデスサイズをよそに、トールギスの止まらない情熱はさらにヒートアップした。
「美しいぞ! この俺の姿でお前の声だぞ? 最高ではないか!? よくよく見ればデスサイズ色ではないか! おお! 口がガンダム?! これは何と運命的な創造物だ!!!」
息継ぎもせずに一気に喋るトールギス。
興奮と嬉しさが最高潮となり、思わず偽者に飛びつかん勢いで走り寄る。いつもの高笑いもさらに大きくなり、よく分からない発言を繰り返す。
ノン・ストップ・ザ・トールギス様。
呆然としていたデスサイズの心中に、今の様子をぴったりと当てはめた言葉が浮かんでは消えた。
「お前と俺の子だな!」
「地獄に堕ちなさい」
爽やかに親指を立てて振り向いたトールギス。
それを偽者めがけてデスサイズがふっ飛ばした。
偽者は倒れ、消えた。トールギスは目を回しながらも意識ははっきりしているようで、くらくらとする頭を抱えて砂煙から立ち上がった。
今日は顔ばかりが傷だらけになるな、と思いつつもデスサイズの方に向き直る。
表情の読めない球体が、自分を睨みつけているような気がした。
それを満足気に受けたトールギスだったが、再び目の色が変わる。デスサイズの背後に、やはり見覚えのある影を見た。
「倒しても倒しても出てくるようですね。埒が明かない」
後ろに現れた鏡のトールギスを鎌で薙ぎ払い、デスサイズは舌打ちをした。
こっそりと横目で、後ろのトールギスを盗み見る。
にやけた顔の人が乙女のように黄色い歓声を上げていた。
「ていうことはまだ一杯いるのだな! よし、根こそぎ貰っていくぞ!」
んな馬鹿な。
もうかなり疲れてきたデスサイズは、つっこみを声に出すことさえ億劫だった。
自己愛が激しく、無類のデスサイズ好きっ子(本人にはとても迷惑なのだが)のトールギスにとって、この空間はハーレムに等しい。
こうなるかもしれないと予想していた分、余計にデスサイズは虚しくなってきた。
もう、帰っちゃおうか。
投げやりな意見が脳裏を掠めながら、それは解決にならないと思い直す。
今も目の前でトールギスが偽者を物色中。輪があるかぎり、ラクロアは吸い取られる運命にある。
これも全て、この輪の持ち主である次元海賊のせいだ。
怒りの矛先がやっと定まる。そこからのデスサイズの行動は早かった。
「さっさとこんな所から出ますよ、トールギス!」
「ええ!? まだ一匹も捕まえてないぞ」
文句を垂れるトールギスを無理やり魔方陣に突っ込むと、デスサイズはその場から立ち去った。
輪の中の世界よりかラクロアはすこぶる明るかった。
城のてっぺんに次元移動したデスサイズは、空に停泊している輪に向かって怨みの視線を投げかけた。
自分はさっさと姫の元に行きたいのだ。横にいるバナナ騎士(暴言)の世話も、さっさと切り上げたいのだ。
「狙うなら違う場所に行け!」
魔法を凄まじいスピードで練り上げると、デスサイズは鎌を天へ向かって振りかざした。
分厚い雲に、巨大な黒い魔方陣が描かれる。この時ばかりはスティールドラゴンとデスサイズの波長もぴったりと合ったのだった。
おかげで例の輪は魔方陣に飲み込まれ、そして消えていった。
何処か別の次元に突如として現れているだろうが、それはデスサイズの知ったことではないのだ。
「さすがだなデスサイズ! 私の伴侶として最高だぞ!」
「貴方もさっさと部屋に帰りなさい」
トールギスは本日二度目の浮遊感を味わった。
ラクロア城の頂上の屋根の上から、白い何かが勢い良く落ちていった。
余談だが、超巨大魔法のおかげでマナを大量消費したデスサイズは数週間寝込むことになる。
その間中ずっとトールギスの看病を受け、療養中であるのに疲労感は拭えなかったとか。
-END-
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書いたヒトが一番馬鹿なんですよ。お目汚し、すいませんでした!
もう本当に、ミラートールギスと出会った時は絶叫物でした。声、エロい(死)
「こうして次元海賊さんはネオトピアに来ちゃいました☆」みたいな…。ああ、駄目駄目ですな;
かっこいいT様とか変態なD様とかも大好きですが、ヘタレで壊れなT様と苦労人なD様も大好きです。
この小説はあくまで妄想の塊のパラレルなギャグですので、信用しちゃいけませんよ!<誰もしません。
(2005/01/05)
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