++ 万年四月一日 ++
春の匂いがする。
長い間石化していた森にも、ようやく自然の息吹が戻ってきたのだと改めて認識させられた。
桃色に色付いた花弁を見上げながら、木陰の下で思い浮かべるのは遠くの異国に残ることを決めた仲間の姿。
散る様が潔いのだと、彼はこの木に良く似た花を称えていた。
まるで自分の道のようだと。
真っ直ぐなその姿は、武者の持つ独特の空気を体現したようなものだったとすぐに思い出すことが出来る。
「……私も随分と焼きが回ったようだな」
苦笑を浮かべながら、木を愛でる騎士は空を見上げた。
澄んだ青い空。薄絹のような雲。昼間でもうっすらと見える、双子の月。
そのどれもが、今この瞬間彼のいる国と繋がっているのだと思うと、何だか不思議だ。
同じ世界にいて。同じように祖国のために働いている。
同じ時を、過ごしている。
だから、再会を誓ったように。
いつの日かきっと会えるだろうから。
素直じゃない自分はまだ言えない。まだ仲間で、悪友であり親友でありたいと思っているから。
嫌いだ、とか。苦手だ、とか。美しくない、とか。
何遍言ったか分からないけれど。
確かにそこには自分の感情の欠片があるのだけれど。
その真実は裏返しで、本当の自分の気持ちが好意であれば彼はどう思ってくれるだろうか。
「あいつは馬鹿正直だからな」
翼の騎士は忍び笑いを漏らした。
自身の願望もあるだろうが、彼が拒絶する様子など思い浮かばない。
もしもまた、あの日々に戻れるのならば。
「今度は、正しく伝えてもいいだろうか」
ゼロは想いを馳せ、空高く舞い上がる。
遠くの天宮を見守るように。
それからしばらくして再会して、共にまた旅立ったけれど。
「相変わらず美しくない奴だな!」
「お前こそ相変わらず軟派な性格は治っていないな!」
やっぱり意気地の足りなかった騎士は、相変わらず万年エイプリルフール。
-END-
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皆といると素直じゃないけど、一人なら素直な騎士様。
片思いのような、両想いのような微妙なラインです。やっぱりこの二人は喧嘩して何ぼですよ(何)
そういえばラクロアに桜ってあるのかな…。天宮より北にあるからないっぽいけど…。
(2006/04/01)
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