** Back of Grief **
いつだって君の背中は震えていた。
次元を超えてやって来る敵を迎え撃つ時。
連れて行かれた溶岩の滾る要塞を見た時。
荒れ果てた祖国の姿を目の当たりにした時。
君は大丈夫だと自身に言い聞かせながら、不遜な態度でそれを押さえつけていたのだと今なら分かる。
逃げるように宙に舞うのは、誰にも触れられたくないから。
小さく小さく小刻みに揺れている手に、気付かれないように。
そうやって君はいつだって耐えていた。
自分達がいるのにどうして、と。
少しだけ問いたかった。
震えは大きくなっていた。
仲間を助けようとして逆に庇われる度に。
石と化していく人々を瞳の中に刻み込む度に。
街に突き立てられた赤い角を睨みつける度に。
果敢に剣を持って戦うけれど、そんな君に時折目を伏せたくなるような気持ちになる。
全てを失った君は、その身一つで何もかも背負おうとするけれど。
隣に誰かがいることに気付いてくれているだろうか。
本当は君の背中に腕を回して、この身に換えても君を守ってあげたいのだと知っているだろうか。
もうこれ以上、一人で孤独な闇に怯えて欲しくなかったのに。
君はその時、泣きたくても泣けないように思えた。
注意を払って見ていなければ分からなかったはずの震えは、悲痛な慟哭に揺さぶられて大きくなっていた。
両手を凝視する君は、大きな瞳を曇らせて笑う。
この手は血塗れだ、と己を罵り、嘲り笑う。
真っ白な断罪の翼をはためかせ、薄暗い石の国に光をもたらした救世主。愛しい国と君主を取り戻したというのに、彼の手にはかつての仲間も、敬愛していた親友も零れていった。
その穴を、自分の存在で埋められるなんて思っていないけれど。
「泣かないのか」
「……泣けないんだ」
空色の瞳は潤むけれど、決して零れることがない。
道を外した騎士の話を姫としても、嗚咽のような声音が出るだけで。
「君はいつも、哀しそうな後姿をしている」
「いつも? それは見間違えじゃないのか」
自嘲する横顔は似合わないけれど。
隣に立って、静かに君を見つめる。
「……君はいいな。親友の嘆きに、危機に、諦めないで立ち向かうことができる」
「ゼロ?」
それは君だって同じだと、言いたかった。
でも。
空虚な色を灯していた双眸は苦痛に歪む。
くしゃりと形崩れる様は、脆い刃を思わせた。
「――今だけだから」
何も言わずにうん、と頷く。
君は縋りついて、初めて人目も場所も気にせずに泣き喚いた。
自分よりも少し小さな背中を抱き締めて、その震えがとうとう止まったことに息をついた。
耐えることを止めた背中は、涙と共に蟠っていた悲哀を流していってしまうだろう。
それでも、いつも震えていたその意味を君は一生忘れない。
決して君の前から消えはしないと誓っても、きっと君は曖昧に笑ったまま答えは返してくれないのだと漠然に思う。
そう言って、死んだ仲間の方が君には多かったから。
生きていたのに助けられなかった人を、大義のために切り捨てたのは君だから。
きっと君の震えは見えなくなるだけで、今も何処かで燻っている。
-END-
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放送終了一周年記念企画にて、リクエスト頂きました。
キャプゼロ独白ということでキャプテンに独白していただきました。
シュウトが危機の時に、ゼロの制止を振り切って結界を破ったキャプテン。
同じことをゼロはディードに出来たのか、とラクロア編後のゼロはうじうじ悩んでいたと思います。
泣いて少しは吹っ切れたと思いますが心中では…。と思いつつ書いてみました。
というかこれではキャプ→←ゼロ→ディー??
(2006/02/12)
記念企画のお持ち帰りは終了させていただきました。ありがとうございました。(03/10)
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