がしょんがしょん、と定期的な振動音を鳴らし、天宮の大地を歩く無骨な影。
苔の生えたビグ・ザムが、のそのそと歩いていた。
[ 只今休戦中 ]
微妙な振動を感じながら、ひっくり返った操縦席でのんびりとしているザクは欠伸を噛み殺した。
三人で運転しなければならないビグ・ザクだが、こうしてただ歩行するだけならば一人で十分だったため、三人で交代しながら操縦している。
今はグフが上で動かしているため、下にいるザクとドムははっきりいって暇だった。
「ふんふんふ~ん♪」
あからさまに空き時間を持て余しているザクとは対照的に、ドムは先程からお気に入りの銃の手入れに勤しんでいる。
体勢が悪いのだが、器用なものだと隣にいるザクは感心してそれを眺めていた。
床を見てみれば、邪魔なくらいごっちゃりと武器の山がある。
自分も暇を潰すものを持ち込んでいればよかったと後悔するが、後の祭りだ。
「あー暇だなぁ」
思わず愚痴を零せば、上からグフの呆れた声が降ってくる。
「だったらお前が動かせよ」
「冗談。オレはさっきまで二時間ぶっ続けだったんだぜ?」
グフは舌打ちしたものの、最初に決めたことなので仕方がないと諦め半分で操縦桿を握り直した。
正論で勝てたことでザクはにやりと笑うものの、暇には変わりない。
さて、どうしようかと考える。
視界の先ではドムが鼻歌を歌っている。
「……お前は気楽でいいよなー」
「ドムゥ?」
何となく呟けば、相手が不思議そうな顔をして振り返る。
聞いていないようで聞いているドムに苦笑を浮かべると、ザクは床にある武器を指差した。
「オレのマシンガン、あの中にあったよな?」
「うん。あのバズーカの影にある」
磨いていた手を止め、ドムもまた武器の山を指した。
言われた場所を見てみれば、大きなバズーカの奥から見慣れたマシンガンの取っ手が見え隠れしている。
単に武器が隣り合っているだけなのだが、それを見止めたザクはじんわりと滲むような笑みを浮かべてしまう。
「オレも磨いとくかな」
シートのストッパーを外し、ザクは床に足を下ろした。
振動が直接足元に伝わるが、これくらい何てことない。
ドムのコレクションに近づき、彼の愛用のバズーカを退かそうと手を伸ばした。
しかし、その前に手が止まる。
じっと見つめた先にあるのは、マシンガンと同じくバズーカの隣にある鈍く光るもの。
何だろうかと覗き込むと、ザクはむっと顔を顰めた。
そこにあったのは、グフの隻腕に嵌めるパーツの一つ。
普段は装備されていなそれを見るのは久しぶりだったが、何故ドムの武器の中に紛れているのだろう。
「ザク、取れた?」
動かないザクを怪訝に思ったのか、ドムが下を見下ろした。
これが何でここにあるんだと言いたげなザクの視線と目が合い、首を傾げる。
「グフが持っていろって言っていたドム。もうあんまり使う機会もないだろうから、やるって」
「……」
狭い空間だ。二人の会話はグフに丸聞こえのため、青い彼は内心少しばかり冷や冷やしている。
ザクとの喧嘩は受けて立つが、今は何せ上に人を乗せている。暴れてしまえばお仕置き受けることは間違いない。
だから珍しくグフは何も言わなかった。
「そう、だよな。……これも磨いておくか?」
しばし黙り込んでいたザクは、珍しく小さな声で呟いた。
すぐに怒り出すだろうと予想していたグフは驚き、思わず下を見る。
ザクは口の端を上げて、笑っていた。
「お前、マジか?」
「大マジだぜぇ?」
呆然とするグフの間抜け面に満足したのか、ザクは自分のマシンガンとグフのパーツをそれぞれ抜き出した。
「ドム、オレのマシンガンもお前がずっと持っていていいぜ?」
「ほんと!?」
途端に目を輝かせるドムに、ザクは苦笑する。
「オレのと、グフのと、おめぇの。一緒に置いておいてな」
「うん!」
大きく頷いたドムを楽しげに見ていたザクは、勤しんで武器を磨き始めた。
天変地異の前触れかとグフは焦っていたが、彼の言葉を耳にして、何とも言えない笑いを浮かべてしまった。
「天邪鬼な奴」
「けっ。何とでも言え」
二人は憎まれ口を叩きながらも、楽しげに会話を続けた。
その間に流れている歌はさらに元気の良いものとなっている。
能天気な想い人が幸せなら二人は満足だったし、何だかんだで競い合うこの関係が居心地良かったりするのだ。
「ザク、グフ、ありがとう!」
笑う彼に抱いている気持ちは二人とも同じだから。
あの戦いを三人とも生き残れて良かったと、ザクもグフもドムも思っているから。
今は、ちょっとだけ休戦中。
-END-
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仲良しZGD。今回はザッパー様がいいとこどり?
ED後になるとだいぶ性格が丸くなっていそうです、三馬鹿。
ザクもグフもお互いに認め合っている……かな?
(2006/04/01)
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