<君といること>



 どこが好ましいと問われれば、自分はどんな回答を選択するだろうか。

 自分の持つ忌々しい姿と同じ、その身体。
 決して陽の差さぬ影の道を選び取った証である、闇の色。
 稼動してから一度も見たことがなかった、美しくも妖しい外貌。
 仮面の奥底に封じられているであろう、凍れる二つの至宝。
 彼に対する様々な情報は脳内を飛び交うものの、該当する言葉は決して浮かばない。

 強いて言うのならば、とも考えてみたが結果は同じだった。


 馬鹿馬鹿しい。


 ガーベラは装甲の下でうっすら笑う。
 そうして、モノアイの向こう側にいる、ぼんやりとした影のような姿を見つめるのだ。

「お役に立てていますか、プロフェッサー?」

 影――デスサイズは目をそっと細め、いつものように嘲笑混じりの静かな声を響かせる。
 そうして、眼下に横たわる空の鎧をじっと眺めた。

 溶鉱炉の傍らには、幾十もの主を失った鎧がただ乱雑に置かれている。
 中身は、すでにジェネラルの体となり、もはや原型すら留めていないことだろう。

「無論。ジェネラルの復活に随分と近づいた」

 感情の乗らない言葉の裏で、ガーベラは苦虫を潰したような複雑なわだかまりを持て余していた。
 原因は知れている。

 デスサイズがそれらを瞳の中に映すこと。
 たったそれだけのことが、気に食わないのだ。

「それは良かった」

 白々しいまでの台詞。
 本当は、仲間だった者たちを殺した意味が欲しいだけだろうに。


 誰もいない溶鉱炉で、デスサイズが何をしていたのか、ガーベラだけが知っている。
 山になった鎧に囲まれて、彼は一人佇んでいた。
 元の姿を晒しながら。断罪を待つ生贄のように、じっとしていた。

 薄い唇から漏れたのは懺悔か。皮肉か。

 けれど、からんと落とした仮面の向こうで彼は。
 蒼白の顔に、貼り付けいたような無表情を浮かべていた。

 鷹揚に話術を展開する、普段の彼とはまるで違い。

 泣いていた、ように見えた。



 とても、気分が悪くなった。



「デスサイズ、お前はずっといるのか」

 何処に、とも。
 誰と、とも。

 彼は問いたださなかった。

「そうですね」

 死神はあくまで曖昧に笑うだけ。
 底の見えない仮面を被ったまま。




 切り捨てられたときには諦めを知ったガーベラだったが、今は違う。
 偽りの装甲を身に纏って、初めて訪れた執着心は抑えられるものではなく、また抑えることは愚かだと知っているからこそ。
 彼に、手を伸ばすことに決めた。

 全てを憎み、諦め、壊すはずの世界で見つけた、心揺さぶられる者。

 知ってしまった感情は止められないのだ。


 底が破れて、空っぽになってしまったコップが満たされていく感覚。
 不思議とそれに嫌悪は感じられず、貪欲に自分は求めるのだ。
 もっと、もっとと。

 より長く、共にありたい。
 より深く、知りたい。



「本当に、馬鹿馬鹿しいな」

 ガーベラは気付かれないように息をついた。
 まるで子供ではないかと思いながら、止めようの無いことを知ってしまった。

 目の前ではデスサイズが不思議そうにこちらを見ている。
 その視線すら、居心地良く受け止める。



 強いて言えば。
 これの感情は――。




 END.




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自覚編? いまだにガベ→デスな感じですが。
もうちょっと続くかもしれないです。
(2005/03/18)


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