ただの精霊になりたかった。

 誰かの傍にいられる存在になりたかった。


 キミの側で、死にたかった。




キ ミ の 側 で 眠 り た い




「さあエピオン、表舞台に立つ時ですよ」

 優しい優しいディードの言葉に、エピオンは沈んでいた意識を浮き上がらせた。

 彼の口調が変わってしまったのはいつの頃からか。
 自分を解放してくれた時の彼は、まだ近い存在だったというのに。
 今では、こんなにも遠い。

「ディード――デスサイズ?」

 教えられた偽りの名で、確かめるように呼びかける。
 彼は哂う。
 その身体を隠すように纏われている漆黒の鎧と、黄金の仮面。鋼の気配が濃密に漂っている死神のような佇まい。

 エピオンは、無機物の王たる精霊竜の姿を思い出し、自分の中に燻る欲求に身を焦がす。
 自分には許されることのない、主との憑依。
 中途半端であり忌み嫌われる魔剣エピオンが、決して望んではいけないこと。


 彼のことを守りたいというのに。
 彼が自分に触れてしまえば、彼の心は魔剣に蝕まれてしまう。だから触れて欲しくない。
 そんな二律背反を抱えながら、エピオンはただ羨望するようにディードではなくなった彼の背中を眺める。

 ただの精霊であれば。
 ただの騎士であれば。
 ただの剣であれば。

 もう少しくらい、傍にいられたのかもしれないのに。

「さぁ魔剣エピオンよ。我が悲願を叶えるため、次元の裂け目に落ちし最強の力を持って参れ……」

 魔法の力で持ち上げられ、闇の魔方陣の中に放られる。
 彼の傍には、常に共にいるスティールドラゴンと石像の少女と紛い物の姫の姿だけ。

 自分はどうしてあそこにいられないのだろう。

 ディードが人間になりたいのだということは、薄々ながら知っていた。
 その願望は、エピオンが抱えるものととても似ていて。
 だからこそディードが自分を利用しようとしていることも――国も仲間も裏切った彼に、切り捨てるかもしれないということが分かっていても――エピオンは黙って従うことを選んだ。

 利用されても構わない。
 喰らってしまえば傍にいられないから、我慢だってする。


 精霊になりたかった。

 きっと人々に愛されることが出来て、認めた主の力になれて、当然のように傍で守れる。
 主が死ぬ間際でさえ、隣にいられるというのに。


 キミの側についていたかった。

 スティールドラゴンのように、ディードを見捨てて一人生きることを選ばないのに。





-END-




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エピオン独白の形って何かいつも同じ感じ……ですね;
書き方が未熟でゴメンナサイ。
精霊として高位であるスティールと精霊系列に所属できない魔剣のエピオン。
ラクロアのためにデスサイズを切り捨てなければいけないスティールとは対照的に、
エピオンはただデスサイズのために側にいたかもしれないという妄想より。
(2005/09/19)

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