++ 硬い温もり ++



 こつん、と可愛らしい音をたてて、指先と手の甲が触れ合った。
 途端に手を引いたデスサイズに、ガーベラは微かに首を傾けた。

 彼は気付いていない。
 それが分かると何だか馬鹿馬鹿しくなって、デスサイズはふっと息を吐き出した。

「どうかしたのか?」

 モノアイを引き絞りながら、ガーベラは普段通りの落ち着いた声音でそう尋ねた。
 持ち上がった腕は、硬く冷たい機械が複雑に入り組んでいる。
 自分の指が当たったのは手の甲というよりも、工具が収納されているサーモンピンクの追加装甲だったのだとデスサイズは急に思い当たった。
 そう考え、今度は違う類の溜息が吐き出された。

 残念がっているような自分に腹が立ち、デスサイズはガーベラから離れた。
 突然の行動に、相手は始終訝しげな様子だったが、デスサイズの奇行はすでに日常の範疇だった。ガーベラは動じた様子もなく、再び止めていた手を動かしだした。

 片手で器用に操作盤を打ち込むガーベラ。
 少し離れた位置でそれを見るデスサイズの視線は、どうしても彼の下ろされたままの片手に投げられてしまう。
 それから、当たってしまった自分の指を。

 そこには硬い感触しかなかった。
 人間のように柔らかくも、温かくもない、造形品の形があるだけ。
 抱き締めても、抱き締められても、互いを包み込むような柔軟性があるわけもなく、互いの金属で反発しあうだけなのだろう。

 有機物嫌いのガーベラはきっと、それで構わないというだろう。
 けれど、それは。
 どれだけ情を交わしていても、拒絶されているということと同意義のような気がして。

 弱気な自分の思考に嫌気が差し、デスサイズは帰ろうと自分の姿を仮初の影に変えようとした。
 ガーベラといるせいだと、八つ当たりにも似たような感情が込み上げてきそうで怖かった。


 けれどかざそうとした腕は、力強い手に引き止められ。
 慌てて相手を見たデスサイズの目に飛び込んできたのは、ガーベラの必死そうな表情だった。

「行くな」

 当たった手を、当たってしまった彼の手が握っていた。
 デスサイズは先程のそれを思い出し、顔が上気していくことを感じた。

「ここに、いろ」

 引き寄せられ、勢いよくデスサイズの身体がガーベラの胸の中に納まる。その背中を両腕が回り、抜け出そうにも放れることはできそうもない。
 抵抗を止めたデスサイズは、ガーベラの硬い身体に額を当てた。
 こつん、と。さっきと同じ音がした。

「……ガーベラ、少し痛いです」
「痛い位が丁度いい。私の抱擁はこうなのだから」

 少しだけ背が高いガーベラの首を抱き締めて、デスサイズは目を閉じた。
 温もりも感じられない忌まわしい体だけれども。
 彼の腕の中ならば、金属の擦れ合う音も気にならないと思った。



 ガーベラは仕事を続けている。
 けれどやはり片手だけが滑る様に動き回り、もう片方の腕は素っ気なく下に下ろされていた。
 その手には寄り添い合うように、もう一人の少し小さな手がしっかりと握り込められていた。



-END-




---------------------------------------------------------
今日の目標「手を繋ぐ」。
二人の身長差なら、丁度手の甲と指が当たるのではなかろうかと思い立ち。
恥ずかしい奴でごめんなさい……;
(2005/09/15)

←←←Back