「うっそー! 何だこりゃー!」
「いてっ! コラ、ぶつけんじゃねぇよ!」
「ザコザコザコー!」
「ドムムムムー!」

 目まぐるしく世界は回る。
 暴走という名の最悪な状況下で。




[ 今暴 ]



 天宮に転がり込むように転移されてきた三人とザコ達は、天地城を攻め落としたスクラップのビグ・ザム内にいた。
 これがまた、何を間違えたのかまだ動く。
 おかげでガンダムサイから跳ね飛ばされた者達が、すし詰め状態でコクピットに入った途端、暴走状態に陥ってしまった。

 外部では武者たちが慌てた様子で対応している。
 対する内部の操縦席は、まるで洗濯機の中だった。


「誰かぁ! 止ーめーてーぇぇぇぇ!」

 あちらこちらの角に頭をぶつけ、涙目になりながらザクが叫んだ。
 便乗するかのように、周りのザコ達もあわあわと助けの声を上げている。


 がっこんがんごんザコザコザコ。


「ああうるせえぞっ! ちっとは冷静になれ!」
「モップさまー!」
「モップはどうでもいいだろうが!」

 装甲の角が壁に刺さらぬように首を適度に動かしながら、グフは苛ついた様子で防御に専念する。
 実際、あまり冷静でもなかったのだが、目の前には目を回しているドムがいるのだ。
 装備したままの武器がかち合えば、それこそひとたまりもない。

「うお!」

 ガタンッと大きく機体が揺れた。
 重力に従い、全員が塊のように一斉に端へ流れ込む。
 それこそ津波のように、緑の海の中に赤と青と黒がもみくちゃにされていった。

「いてててててて! おい、ドム、平気かぁ?」

 傾いた方向の一番端にいたドムが見えなくなり、さすがにザクも心配になった。
 半分以上気絶して回っているザコを何とか掻き分け、覗き込む。

 ドムは前回の搭乗時と同じく、かなり酔っていた。
 乱された髪のせいで表情が見えなかった顔が、息苦しさで真っ赤になっている。

「ザクこそ平気ドム?」

 これだけの混乱中であるのだが、ドムは普段どおりだった。
 しっかりと両手でかかるように武器を持っているせいで依存症状が面に出ていないのだろう。
 安堵の息を吐こうとしたザクは、再び襲い掛かった揺れによって今度は逆様になった。

「ザク様大丈夫ザコー?」

 下敷きにしてしまい押し潰れたザコと、積み木のように覆いかぶさってくるザコが、弱々しく声を上げる。
 詫びるものの、この現状では仕方のないことだ。
 身動きの取れない状態で視界だけがぐるぐると巡る。

「あでっ!」

 ザコのサンドイッチ状態のまま、頭だけが出ていたザクの額に硬い何かがぶつかった。
 そのまま奥へと転がっていったそれは。

 ドムが先程抱えていた武器で。

 物体が落ちてきた方を横目で見れば、錯乱寸前の顔付きになったドムが呆然としている。
 経験上、ザクには分かった。これはかなり酷い状況だ。

「ドム!」

 近くにいたグフが慌ててドムに近づく。自分の持っていた武器を手渡そうとしているのだろう。
 その行動に気付き、ザクももがきながら落とされたバズーカに必死で手を伸ばした。


 刹那、また逆方向に揺れが来た。
 落としたものはドムの方向へ流れ、遠心力に振り回されたザコ達も同じ方向へ回っていく。
 もちろんザクもグフも、全く同じ流れで振り回された。

「しっかりしろよ!」
「落とすなよ!」

 バズーカとほぼ同時にドムの元へ転がっていた二人は、その手でしっかりとドムの手を握り締めた。
 そうするともちろん二人の指が触れ合ってしまうわけで。

 前回と同じ機内で、火花が散り合った。




 内側が騒がしくて外の様子は分からなかったが、揺れはどんどん酷くなっていた。
 三人はとにかく操縦桿を握り締め、踏ん張っていた。
 この状況で不毛な争いが続けられる。

「大丈夫かドム?」
「ってオイ! 何処触ってやがるんだぁ!?」
「おめぇこそしっかり握ってんじゃねぇよ!」

 また回る。

「回っちゃいやぁ!」
「ベタベタ触りやがって! その手を放して落ちやがれ!」
「そっくりそのまま返すぜ! ああー! 抱き寄せんな!」

 さらに回る。

「オペレーションフルファイヤー!」
「撃ったらこっちも爆発するぞ! ザク、ちょっとどけ!」
「てめぇがどけ! 爪が邪魔だ! 危ないだろうがよぉ!」

 頭と身体をぶつけながら、内部はさらにうるさくなっていった。
 エスカレートしていく言い合い。
 伴うごとに二人して同じ場所に触ろうとして指先が当たり、更なる火種となって飛び交った。

 ザクの左手がドムの背中に回るものなら、グフの右手がそれを阻む。
 グフの右手が腰に回されるのならば、ザクの左手が思いっきり甲を抓ったり。

 問題の種になっている当のドムは、必死に席にしがみつきながら武器を抱えていて気付くわけもない。



 そうして水面下の戦いが最高沸点に達しそうになった瞬間。


 ビグ・ザムが、大きく吹っ飛ばされた。



「うぎゃあ!」

 ザコ達もろとも三人は、横になった壁に叩きつけられる。
 ザク、グフ、ドムの順番で折り重なるようにして倒れた。

「あ、止まったドムー」

 何が何だか分からない状況。呑気なドムの声が響いた。
 完全に伸びてしまったザコ達は静かなもので、時折呻き声を上げている。

 そして、どさくさ紛れにドムの下敷きとなった二人はどうなったかというと。



(神様、仏様、キャプテンさまー! ありがとう!!)


 ずるずると野武士たちに連行される中、心の中で拳を握り締めていた。
 ドムに馬乗りにされた(押し潰されたと世間は言うのだが)事実で、顔がにやけきったままだ。
 そうしてそのまま仲良く同時に牢屋に放られた。


 この狭い牢屋の中でも、再び一悶着あることも知らずに。






 -END-




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書いていて何が何だか分からなくなってきたもの。
実際では暴走ビグ・ザム内にモップもバズーカもなかったような気が……。
すいません。夢見がちすぎです。
(2005/01/22)


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