君が生まれ出でた奇跡に感謝する。



 * リ バ ァ ス デ ィ *




「デスサイズ、お前はいつ生まれた」


 突拍子も無いことを言い出すガーベラは、今日もまた可笑しなことを聞いてきた。
 人間じゃあるまいし、誕生日を聞き出すことに何の意味があるのか。
 有機物嫌いのプロフェッサー殿が何ゆえそのようなことを、と死神はケラケラ笑った。

 しかしガーベラはあくまで真剣そのものだった。
 何かまた吹き込まれてきたのだろうかと、ぼんやりデスサイズは考える。

「機械にも製造月日が存在するだろう。そういう意味でだ」

 決して人間たちとは違うのだと、ガーベラは無理やり言い繕う。
 理由は何でも良いのだろう。とにかく彼はデスサイズの生まれた日を知りたがっている。
 その様子に、薄笑いを返しながら死神は答えた。


「知りませんよ」


 知る、はずがない。
 精霊の樹から湧き出る泉。王家の祈りによってそこからマナクリスタルは生まれ、流れていく。
 ある者は精霊となり、ある者は騎士として生を受ける。
 それは偶然による産物で、決められて生まれたものではないのだ。

 さらにデスサイズは、ラクロアで生まれたわけでもなかった。
 流れ流され、暗く冷たい国の果てに一人きりで目覚めた。精霊の気配も薄い、誰もいない場所で。


 幾度呪ったことだろう。

 人の身ではない自分の生まれを。
 祝福の言葉すら捧げられたことのない、卑屈な自分の生き様を。



「……デスサイズ?」


 かけられた呼び声にはっとした。

 ガーベラの光る一つ目が、窺うように見ている。
 取り繕ったいつもの笑みで表情を隠し、視線を合わせる。


 同じものでできているはずなのに、生まれ方は何故こうも違うのだろうか。
 相手に気付かれぬように、ガーベラは拳をさらに強く握った。


「貴方にはあるのですか?」

 デスサイズはおもしろそうに――見え透いた態度だったが――質問を返してきた。
 ほんの少しだけ、目を細めたガーベラは押し黙った。

 そしてすぐに口を開く。

「――私はジェネラルと出会い、生まれ変わった。その日が私の生まれた日だ」


 自分には確かに製造月日があった。
 けれど、それは遠い未来のある日。裏切った人間たちの手より生まれた忌むべき日。
 そこには何の意味も見出せない。


「なるほど」


 沈黙をどう受け取ったのか、相変わらずデスサイズは真意を見せない笑みを浮かべていた。

 それをじっと観察していたガーベラは、ふと、気付いた。


「では私も、生まれ変わったその日を誕生日にしておきましょうか」



 その瞬間だけ。

 彼は確かに、ふんわりと。
 心の底からの笑顔を零したように見えたのだ。


 だから。


「――それは、私と出会った日だと認識して良いのか」


 柄にもないことを、口走ってしまう。


「え? ……あ……」


 思いがけないガーベラの言葉。
 不意打ちをくらったデスサイズもまた、柄にもなく唖然とした様子になり。


 朱色に染まる肌を素のままで晒してしまった。


 途端に喉を震わせ、ガーベラが嬉しそうに笑うものだから。
 デスサイズもつられて自然に口元が深い弧を描いた。


「じゃあ貴方も、もう一度生まれ変わって下さいよ。今度は私だけのために」
「考えておこう」

 額をこつりと合わせて忍び笑いを漏らす。
 合わさった手の平の温もりが、何とも心地良かった。





 あれだけ疎ましく思っていた、己の誕生。

 けれど今だけは。
 君に会えた奇跡に、素直に感謝したい。





 -END-




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珍しく普通にらぶらぶ?な二人。
ほのぼのとしているようで、結構二人して暗いこと考えてますね;
幸せになれなかった二人だからこそ、こんな感じの話が書きたくてしょうがない。
ここから下にオマケ文がありますが、雰囲気ぶち壊しなギャグなのでご注意(笑)
綺麗な気持ちのままで帰りたい人は、どうぞバックして下さい!
(2005/01/09)


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* オマケ *




「あー、邪魔をして悪いのだが……そろそろ会議を始めぬか?」

 完全に二人っきりの世界を創り出していたガーベラとデスサイズ。
 そこに、少しだけ退きながら騎馬王丸が咳払いをした。

 あろうことにジェネラルの間である。
 ジェネラルは幸い眠っていたようだが(勿論ガーベラはそれを見越していた)いつ誰が来るか分からない場所だ。
 見ている自分が恥ずかしいと思いながら、さっさと用事を済ませたいがため騎馬王丸は勇気を出して口を開いたのだった。

「騎、馬、王丸……!?」

 見られていたことによるショックで、デスサイズは一気に固まった。
 いつからいたのか、と声にならない声を絞り出し、がくがくと肩を震わせている。
 そんなデスサイズを可愛いなあとか思いつつ、ガーベラはリフトを騎馬王丸の側に寄せた。
 いつものように自信満々な様子で踏ん反り返り、にやりと口元を歪める。

「見物などとは良い身分だな? それで天宮は落ちたのか? それともまた兵器の増強でも頼みに来たのか?」

 サーモンピンクの装甲にさっさと帰れオーラを立ち上らせ、いつもの嫌味が吐き出される。
 こめかみを引き攣らせながらも、騎馬王丸はそれに応戦した。

「あのカラクリも脆いものよ。二十も投入したのに城一つ落とせん」
「ふん。貴様の使い方が悪いのだ。馬鹿の一つ覚えのように突撃させているのではないか?」

 先程までのいちゃつきを邪魔されたことで、ガーベラはかなり苛立っている。
 「まさかあんな顔したデスサイズまで見られたのでは!? お、己、騎馬王丸め! 溶鉱炉に突き落としてくれようか!」などと物騒なことまで考えている始末。
 対するデスサイズは――かなりへこんでいたりする。
 このままリリの元へ帰ろう、とめそめそしながら魔方陣まで描き始めていた。
 それを慌ててガーベラが制する。
 騎馬王丸への態度は何処へやら、高圧的な口調はそのままに、かなり弱腰だった。

「デスサイズ!? 待て、帰るな! 今日こそは愛を確かめ合えただろ!? 今夜はお泊りなのだろう!!!??
やっぱりそんなこと考えていたんですね!? 最低!!」
「駄目だー! 帰るなー! 待ってくれー!」
「姫ー!! やはり私には姫しかおりません!!!!」
 

 そうして、一気に喧騒が静かになる。
 デスサイズは何やら妄想の世界へトリップしながら、ラクロアへと帰ってしまった。
 残されたガーベラは、無様に宙に手をかざしたまま硬直している。
 それから、標的は移行した。

おんのれぇぇぇ騎馬王丸めぇぇぇ!!! 貴様から解体してジェネラルに捧げてやるぅぅぅぅ!!!!
「ちょっと待て! それは俺のせいじゃないだろう!!? この甲斐性無しめ! だから友達がいないのだぞ!!!!


 血涙を流しながら襲いくるガーベラ。
 それを死に物狂いで避けながら、ありったけの罵声を浴びせかける騎馬王丸。
 仁義無き戦いはこうして火蓋を落とされたのだったりする。



 ちなみにデスサイズは再び要塞を訪れるのは、この日から数週間後のことだった。




 -END-


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T様はおろかガベ様まで……! すいませんでした(土下座)
本文はあんなにほのぼのしているのに、何ですかこの壊れっぷりは!(笑)
ヘタレなガベ様と乙女なデス様……。それから被害者な騎馬様……。
どうしちゃったんでしょう、この高級幹部の人たちは!<むしろお前の頭が。
(2005/01/09)


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