+ + Always + +






 廊下をゆったりとした足並みで進むディードは、ふと窓から見えた人影に気付いた。
 聡明な眼差しとは裏腹で活発な一面を持つ少女が、こっそりと散歩に向かう様子が見えた。その後を、慌てて一人の若い騎士が追いかけていた。

 ディードは思わず苦笑を浮かべる。
 彼にとっては日常茶飯事の光景も、騎士団に入りたてのゼロにとっては慣れないものなのだろう。
 とはいっても、頻繁に城を離れるような君主は稀な存在なのだが。



 情けない声を上げて追い縋るゼロ。
 意を介さないリリ。
 そんな対照的な二人をそっと見守りながら、ディードは知らずの内に胸を押さえた。

 ちくりと痛むのは、誰に対してなのだろう。




「ディード?! 付いてきていたのなら姫を止めてくれ!」

 ようやく気付いたゼロは、よろよろと疲れた様子で飛んできた。
 ディードが立っていたのは、湖の前で自然と戯れているリリが視界に入るぎりぎりの位置だった。
 彼女なりのストレス発散なのだと知っているディードは、お目付けとして付いてきたとしても、こうして邪魔にならない距離の保ち方を良く理解していた。

「いいのだ、ゼロ。あまり喧しいとご機嫌を損ねるぞ?」

 笑い声を押し殺しながら言って見れば、ゼロは言葉に詰まっていた。
 ラクロアの蒼き薔薇とさえ称えられる少女が、実はとんでもないお姫様なのだということは、騎士団に入ってから身に沁みている。
 また、あの芸をやらなくてはならないのか、とゼロは冷や汗を流した。

「お前も息抜きをするがいいさ。ここは、姫様お墨付きの秘密基地だからな」

 そう言ったディードは地に腰を下ろし、木の根に背を持たれた。
 爽やかな風が通り過ぎ、温かい陽気が降り注ぐ。豊かな自然の中に座る氷刃の騎士の横顔に、ゼロは思わず頬の熱が上がることを感じた。

「……分かったよ」
「よろしい」

 慌てて首を振り、拗ねたような声で返事を返すと、ディードが満足そうな笑みを浮かべて振り向いた。
 それを直視しないように俯いたゼロは、彼の隣にそっと座り込んだ。

「お前も疲れているだろう。姫のお守りは私に任せて、休んでおけ」

 小春日和の気候に欠伸を噛み殺しているゼロを見ていたディードは、そう言って彼の頭を自分の肩に押し付けた。
 こつんと冷たい甲冑に額があたり、思わずゼロは眼を瞑る。
 それから盗み見たディードの視線は、すでに湖の方へと向いていた。



 主を見守る騎士の鑑のようなディード。
 彼と思い出を共有しているリリ。
 信頼以上の絆が見え隠れしていることに気付いているゼロは、知らずの内に溜息を吐き出した。

 焦がれて胸が苦しくなるのは、誰に対してなのだろう。







-END-




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ほのぼのとした日常風景。なのにどこか切ないのは、擦れ違う二人の気持ち。
……短くてゴメンナサイ;;
(2006/05/13)



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