喰わせろ。喰わせろ。喰わせろ。喰わせろ。

 お前を、喰いたい。



 白い喉に牙を立てて。美しい肌に赤黒い紋様を散らして。
 苦痛の叫びを紡ぐ間もなく、歌うような声までをも咀嚼し尽くして。
 欲しいと思ったまあるい瞳が閉じられる前に、全身全霊でその身体を感じ取りたい。

 魂ごと奪いたい。

 お前と一つになりたい。



 喰らいたいんだ。
 ねぇ、デスサイズ。



 そうすれば、お前を泣かせる奴も。お前が構う奴も。お前を連れ去ってしまう奴も。
 こんな捻じれ曲がった世界からも。

 ――お前を傷つける全てから遠ざけてやれるのに。


 食べたいよ、ねぇ、ディード。


「駄目だ」



 お願いだよディード。


「駄目」


 お前の黒い感情が、オレにはとても甘美な香りのようで。
 お前の哀しみは、魔剣たる本能えお突き動かそうとじわりじわりと伝ってくる。
 滴り落ちる雫は毒を含んだ砂糖菓子のようで、言葉にできない衝動がオレの中に駆け巡っていくというのに。

 きっとお前からは極上の味がする。
 食べ頃が過ぎてしまう前に、どうかどうかどうか。


「駄目なんだ……」


 デスサイズ。

 デスサイズ。


 ディードって呼んだから怒ったの?
 お前を食べたいと言ったから怒ったの?


 何でもするよ。
 お前が望むなら、邪魔な者を全て貪り尽くすから。

 ――誰よりも一番欲しいのは、お前だけど。


「……おいで」


 喰いたい。喰いたい。

 禁断症状にも良く似たこの感覚を持て余したまま、オレはいつまでお前の側にいられるだろうか。
 冷たく微笑む横顔を眺め、また、表現できないもどかしさが込み上げた。
 喰ってしまえばお前のこと何だって分かるというのに。
 ずっとずっと一緒にいられるというのに。


「いい子だね、エピオン」


 撫でてくれるこの手の感触と、呪わしい名を呼ぶ居心地の良い響きを、オレはまだ失いたくないから。
 今宵も、お前を喰らう夢にまどろむ。





 ――いつかその日が来たら、残さず食べてあげる。





そんな愛し方しか僕は知らない





-END-


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書きかけから引っ張り出してきたエピデス。
エピオンの頭にはこんなに語録は無いと思いますが。愛してるから食べたいのが我が家の魔剣様のデフォルトですね。
(2008/10/22)


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