ちょっと危険物のためワンクッション。
性的表現含みます。
愛してくれ。
なんて、言わない。
愛している。
なんて、言えない。
二人は永遠の平行線。
背を向け合って、生きていた。
[ 愛の定義 ]
寝所で繰り返される睦言。
それは甘く切ない響きをもたらすが、双方にとってはまるで氷の刃のように自らの心を掠めて傷つけてやまない。
真実の言葉を吐ければ、どんなに楽だったことだろう。
苦しみぬいた末に待つのは、甘美な夢によく似た絶望の花畑。
日に当たらない真っ白な肌に口づけを落とし、微かに震えた艶やかな髪に顔を埋め、闇の匂いを感じ取る。
あんなに憧れた日向の気配は何処にも無いのに。
どうしてこんなに焦がれてしまうのだろうか。
「トールギス?」
不思議そうに見つめてくる緋の珠玉。
常ならば冷笑ばかりを浮かばせるそれに、自身を映させることは何という至福だろう。
本心では誰にも従わない、その狂わしい心を無理やりこじ開けられるのは自分なのだ。動じることない笑みを、艶やかに上気した歪んだ表情に変えられるのは自分だけだ。
劣等ばかりを抱いていた過去の自分を嘲笑いたくなるほどの、優越感。
「……トール、ギス?」
それでも。
「どうか、しま、した?」
足りない。
熱い吐息を途切れ途切れにさせ、彼は尋ねる。
自分は微かに口の端をつり上げるだけで、黙ったまま行為を続けることにした。
非難の声が下から上がったような気がしたが、自分を咎められる者はこの国にいるはずがない。
そう、仕向けたのだから。
「黙れ」
一言、強い口調で命令をすれば、組み敷いた細い肢体はぴたりと抵抗を止めた。何事かを紡いでいた唇は、一線に引き結ばれる。
肌の上を行き交いながら、乾いた笑いが込み上げた。
これが自分達の関係。
白々しいまでの虚像。
何も生むことのない、この行為の意味さえ見出せず。
その憤りをぶつけるように、激しく揺さぶる。
真珠のように零れ落ちた涙でさえ、自分の物だと示すように舐め取った。
「あ……ぅ……」
ぽっかりと見開かれた瞳には空虚な闇が広がる。
霞む視界の中、自分を見てもらいたくて、さらに手酷く抱いた。
空気を求めて上下する喉を見上げ、誘われるように噛み付く。痛みで一瞬だけ身体が引いた。まるでこの手から逃げ出そうとするように。
それが単なる反射だと分かっていても、揺らぐ感情は抑えられなかった。
掴み上げた喉をそのまま押し倒せば、彼は苦しげに咳き込んだ。
だが労わってやる余裕など、残されていない。
理性が焼き切れる寸前。
お前は、いつものように言うのだろう?
「愛しています」
汗と涙で汚れた頬を寄せ、耳元で掠れた声が響く。
最後の力を振り絞り、強く首元を抱き締められる。懇願の、抱擁。
熱を孕んだ漣が、急激に退いていくことを感じた。
現金なものだと、心の底で失笑を浮かべた。
「――ふん」
さも興味無さそうに鼻で笑い、行為を再開する。
先程よりも断然優しい手付き。
自分でも、可笑しかった。
愛しているは免罪符。
だから彼は簡単に告げて、自らを守る。
本心では一欠けらだってそんな気持ちは無いだろう。
だから自分は逆に、絶対に告げないのだ。
囁く言葉は曖昧なものばかり。
隙間だらけの行為に今更真実を縫い付けても、何が変わるというのだろう。
けれど。
「愛しています」
そう言われて、泣きたくなるのは。
自分が彼と平行でいられなくなることの、前触れだったのかもしれない。
仮面が崩れたお前の本心。
彼の心が求めていた、真実の愛。
それはまるで、自分のものと同じ類のもの。
報われないと分かっていても、愛することを止めることはできないのだと、彼はその存在自体でそう語る。
ああ、もう届かないのだ。
だからせめて。
――せめて。
「トールギス!」
最後にお前の本当の声が、聞きたい。
-END-
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またT→Dなトルデス……好きですね、自分。
愛といえばラクロア編。T様の勇姿が見れる、あのシーンから…です。
とはいえ見方を変えればT→←Dのすれ違いっぽいですね、これ。
(2005/07/15)