意識の遠くで、泡を吹く音がする。
 広大な海の底に自身が沈むような感覚。そして、身体に風穴が開いたような、喪失感。

 多分、これは。

 感覚だけではなくて。


 目の前で交わされる約束。そして、別れ。

 見る間に、世界は無機物に囚われていくのに。
 そこだけが昔のまま清浄な空気が保たれていた。そう感じたのは、錯覚などではない。

 美しい、二人が。幻想的な光の魔方陣の下、遠ざかっていく。
 泣き出しそうに歪められた騎士の顔。
 不安や悔しさを押し殺し、それでも微笑む姫の顔。

 二人は向かい合ったまま。

 最後に、姫が名残惜しげに手を伸ばした。

 そうして騎士は消えた。
 そうして姫は動かなくなった。



 こぽり。


 ああ、まただ。泡の音がする。
 淡い岩礁に打ち上げられることなく、静かに身体から離れて水面へ向かうかのように。
 泡は静かに静かに、表面へと出てこようとする。



 こぷっ……。


 たとえ水面に出ようとも、誰一人として気が付きはしない。
 そして、無音のまま空気に溶けていくのだ。



「翼の騎士はどうした」

 煌く金の鎧が視界に入る。
 静止画のようだった世界が、ようやく回り出す。

「異世界へ飛ばされたようです」

 喉が痛い。
 低い自分の声が、ひどく掠れているように聞こえ、自己嫌悪に陥る。


 もうきっと、この穴は埋められない。
 自分は越えてはならない線から踏み出してしまったのだから。
 修羅の道を、歩き通さなければいけない。


 憂い顔の姫に、もはや凍ってしまったはずの心が痛んだ気がした。
 その視線の先にあった魔方陣は、虚空に消えていた。

 彼の人はどこかで自分の不甲斐無さを嘆いているだろう。
 それとも、国を絶望色に染め上げた者達を罵っているのだろうか。
 ――または。

「この、裏切り者のことを胸に刻んでいてくれているのかな?」

 口元がいびつに歪んだ。
 もし仮面をしていなければ、今にも泣き出しそうなのが気取られてしまうだろう。

「せめてお前がずっと私の隣にいれば、違っていただろうな」

 自嘲じみた呟きをする今の自分の隣には、何もない。




 こぷり、こぷりと音がする。



 この音は永遠に止むことはない。

 何処かでお前に会うとしても。
 もはや永久に、渇きにも似たこの感情は尽きることはないだろう。



-END-




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デスゼロ? デスリリ? ……よく分からない;
アニメの方ではかなりヤバイ人ですが、普段は普通の(?)方だと思っています。
思っていたいです。
ゼロを送り出すとき、デスが見送っていた。そんなイメージ。

妄想大爆発ですいません。多分、これ以降も夢見がちな設定が出てくると思われます…。

(2004/09/05)



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