刃を交じり合わせ、武士は互いの志を知ると言うけれど。
言葉を交わせば分かり合えると、人は言うけれど。
君に告げたのは罵りの言葉ばかり。
優しい声音を自分自身で忘れてしまうほど、平和の時は遠のいていて。
今更何を伝えればいいのだろうと、無限に続く回廊が目の前に延々と横たわっている。会ってしまえば怒りが全てを見えなくさせて。会えないのならば苦悶の掃き溜めで蹲って。
抱き締めたいのに。
もう、刃を交わすことでしか君に想いを伝えられないのだろうか。
――想いすら、もはや身の内から噴出すことも叶わなくて。
気高き君だからこそ復讐に穢れたこの刃を、真っ当な瞳で迎え撃つだろう。機械に囚われても消えぬこの心を、君は分かってくれるのだろう。
だから、君には言えない。
未来を見上げている君に、この重苦しい恋慕を押し付けたくなどないから。
だから。
明日、君の腕の中で死ねたのならば。
もうそれだけで幸せになれる。しがらみから解放されて。穢れを浄化されて。
いつかまた、君の傍らで笑えることを願うよ。
「孔雀丸?」
君はまだ、そう呼んでくれるんだね。
泣かないで。笑って、看取ってくれ。そうすれば、生まれ変わっても君を探せるよ。
いくら敵対したって。想いは、記憶は、消しようがないね。
子供の頃に握って最後だった君の手が、今はこんなに、哀しいくらい愛しく感じる。
憎もうとしても、結局俺は変われなかった。
変 わ れ な か っ た 。
-END-
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君と僕の12のお題のお題「何者にもなれない僕たちは」より。
阿修→爆っぽいのだけれども、根底は阿修→←爆。
どんなに月日が流れても、お互いが想い合う気持ちはすぐに色褪せてしまうほど簡単なものではなかったと思います。
口調がちょっと幼い感じなのは、今の彼ではなく孔雀丸の彼、という感じを出したかっただけです。
(2007/11/13)
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