まるでその断末魔は、言いたくて言えなかった彼の心の叫び声のように聞こえた。
愛しい人の名を呼び続ける彼は、どうしようもないくらい狂っていたのかもしれない。
どうしようもないほど、哀しかったのかもしれない。
――彼は。
――あの時、泣いていたんだ。
凛とした静謐な輝きを持っていた彼の瞳に、闇が翳り始めたことに誰一人として気付かなかった。
それは多分、あの――彼にとっては生温い悪夢の日々だったのだろうけれど――優しかった平和な時間に浸り過ぎていた自分達の過信だったのだろう。
少なくとも、私には見えていなかった。
彼の親友という立場に立てていられることが、嬉しくて何よりも幸せだったから。隣で時折見せてくれる彼の微笑に、満足していたから。
恋は人を臆病にするというのは何の本の話だったろう。
また、狂おしいほどの愛は人の心を惑わすといったのは誰だったろう。
私は、彼の視線が何処へ向かっていたのか知らなかった。きっと怖くて、知ろうとしていなかった。
私は、彼の心が崩れていく気配に気付きもしなかった。
信頼という言葉が免罪符となるだろうか。
――違う。
彼だから大丈夫だという安堵は、彼のためではない。自分が安心したいから生み出した虚像だ。
だからこそ、その生温い壁を作り出してしまったことで私は彼を助けることすらできなかったのだ。
どうして、どうして、どうして――。
刃を交わすたびに胸が掻き毟られるようだ。
どうして私達は、冷たい刃を向け合っているのだろう。
彼の咆哮は嘆きであり、私が抱いた罪の証。この結果は、彼を愛し、彼に愛されていたとずっと盲目的に信じていた愚かな自分への罰なのか。
親友を――心から愛していたはずの人を救えなかった自分への鉄槌は、半身がもぎ取られるように苦しかった。
その痛みは、今でも覚えている。
大振りの大剣が、漆黒の闇の鎌を弾いた時の音を。
光の一閃が、闇の騎士の身体を引き裂いた感触を。
あの人の嘆きが、大地へと落ちていく瞬間を。
そして、最後まで彼は。
――私の名を呼んではくれなかったのだ。
返 ら ぬ 声 を 求 め
-END-
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君と僕の12のお題のお題「耳に残るは君の声」より。
ディーゼロのようなゼロデスのような。
愛しい人を自ら斬り殺したこと。その人の最期の言葉が紡いだのは、違う人の名前。
どちらにしろ闇に傾いていく彼に気付かなかったゼロは、この結果に対して色んな意味で辛い想いを抱いたのではないかな…。
(2007/10/02)
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