++ 僕の声が聞こえない ++



 襲いくる敵の影を「私」は鎌で屠っていく。
 機械人形達の無機質な体は、何だか紙のようにも感じた。

 隣ではロックが、「私」の持つ鎌のように人を切りやすい形をした武器を振るっていた。
 向こう側にいるのはナタクだろうか。バトールに援護されて、少しだけ怒鳴ったような声を上げていた。

 逆隣で姫を連れているゼロは、真っ青な瞳に涙を溜めていた。
 出会った時にその手に掲げたヴァトラスソードを使いながら、懸命に敵陣を突破していく。
 冷静さを失いかけているその肩に、「私」は手をかけた。
 驚いて振り向いたゼロに、「私」は笑いかける。
 大丈夫だ、と。


 沢山の従者達が途中で倒れていく中、姫様は凛として前を見ていた。
 城の裏手にある崖には、いくつもの横穴がある。
 彼女はそこへと皆を導いていた。
 けれど、彼女も「私」も時間がないことには気付いていた。
 石化現象は周りにいる人間達には既に始まっている。騎士ガンダムである「私」達は、まったく平気だというのに。

 また一人、倒れた。
 倒れた所から石化していく姿に、姫様は悲しげに目を伏せた。

 ラクロアは、落ちる。

 誰しも脳裏に過ぎっただろう、その不吉な言葉。
 王は、城は、精霊の樹は、既にその正しき形を失った。
 城下は見る影もなく壊され、住人達は逃げ惑う姿のまま固まってしまった。
 この惨状のどこに、ラクロアという国があるのだろうか。



 「私」は走る。ただ、彼女と仲間を守るため。


(私は走る。彼女を手に入れるため)



 各所は落ちたのだろう。辺りから敵が終結しつつあった。
 高台から眺め見てみれば、その数は数万にも及んでいることが分かる。
 もう背後には、洞窟の中に作られた祭壇しか残されていない。

 姫様は心を決めたようで、従者達とついてきた三つ子に何かの箱を手渡した。
 その様子を見ていた「私」は、彼女が何をするのか瞬時に悟った。
 剣を構えるゼロを横目で見やり、それからロック、バトール、ナタクの順に視線を交わす。彼等は理解してくれたようで、無言のまま首を縦に振った。

 ゼロだけが知らない、親衛隊の暗黙の了解。
 予言の救世主である彼だけは、必ず死なせてはいけない。

 徐々に近づいてくる沢山の足音に、鎌を握り締める力が強くなる。
 姫が、ゼロを呼んだ。
 困惑する翼の騎士を、「私」は笑顔で見送った。



 きっと彼はラクロアを、姫様を救ってくれる希望の光になるのだから。



(私に力をもたらす、大事な礎になるのだから)



 今にも泣き出しそうだったゼロの背中を見つめ、「私」は踵を返す。
 もう振り返らない。
 姫もその身を石に変えてしまうだろう。ゼロも異界へ旅立ってしまうだろう。


 そうして「私」は。
 「私」は――……。





(私は、二度とディードとして生きられないだろう)






 闇の声が大きくなる。
 「私」の声は、掻き消える。


 デスサイズ。


 お前の変わりに封じられる「私」は、一体何処へ行けばいいのだろう。




-END-




---------------------------------------------------------
この時点では良心(ディード)がまだ少し残っていたかもしれないという話。
こういう別人格っぽいのも好きですが、やっぱりディードあってのデスサイズだと思います。
でも、人って正反対の行動をするだけでまるで別人に見えるんですよね。
デスサイズにしかり、ガーベラにしかり、SDGFって二面性を顕著にしている存在が多いですよね。
(2005/09/15)

←←←Back