+++ Chequers +++
「シュウトー! 起きなさーい!」
今朝の天気は、真っ青な空が広がる快晴。
寝ぼけ眼で窓の外を眺め、シュウトは欠伸を一つした。
顔を洗って、着替えを終えて、食卓についた。まだ何も知らなかった頃と全く変わらない行動。
けい子の手料理の匂いが漂うダイニングで、揺り篭の中のナナが嬉しそうに笑い声を上げている。
テーブルの皿に盛り付けがされるころ、一家は揃って椅子に腰を下ろす。
「今日からまたパトロールなの?」
「うん。基地で皆と待ち合わせしているんだ。食べたら行って来るね」
最初の頃は心配していたけい子も、最近では何も言わなくなった。
日常の風景として受け入れてもらえたのかは、シュウトには分からなかった。けれど彼女は笑って見送り、温かく向かい入れてくれる。理解してもらえているのだと思うと、本当に感謝の念が込み上げた。
「きちんと外でも勉強はしなさいよ」
「分かってるって!」
口煩いところは相変わらずで、出された宿題の山を思い出したシュウトは頭を抱えた。
そんな息子を見て、けい子とマークは笑うのだ。
いつまでも変わらない、家族の肖像がここにある。
淡々と続く毎日の中に埋没してしまうような、些細であって確かな幸せ。
世界が危機に陥ったあの日、家路に着いたシュウトは、自分が帰ってくる場所はやはりここなのだと改めて思った。
抱き締められた温かさが何て素晴らしかったことだろう。
生きて帰れて本当に良かったと、やっと実感が湧いた。
「じゃあ、これ。皆の分も持って行きなさい」
ぼんやりしていたシュウトの耳に、けい子の声が届く。
片付けられつつある食卓に、格子模様の袋に包まれたものが数個置かれた。
「ママ? これって」
「特製手作りクッキーよ。昨日作っておいて良かったわ」
受け渡された物に、シュウトの表情がぱっと明るくなった。
それらを一つにまとめると、ごちそうさまの掛け声とともに、荷物を背負って勢い良く家を出て行った。
あっという間に行ってしまったシュウトに苦笑しながらも、けい子はマークにも同じ物を手渡した。
「くれるのかい?」
「ふふ、余っちゃったの。でもパパにも食べてもらいたいわ」
二人は開けっ放しのドアを眺め、それから顔を見合わせて微笑んだ。
無事にシュウトが帰ってくることを願って。
「遅くなってごめんなさい!」
迎えに来てくれたキャプテンと一緒に基地にやって来たシュウトは、揃っている面子に深々と頭を下げる。
勿論それぐらいでシュウトを怒る者はいない。むしろ、久しぶりに顔を合わせて始終笑顔だ。
「シュウト君。準備が良いようなら、そろそろ行くかい?」
「はい!」
長官の合図を貰い、次元への扉が開かれた。
再び、旅が始まる。大切な仲間と親友と歩く旅が。
けれど、いつでも帰ってくる場所はここなのだ。
最後に一度振り向き、敬礼を長官に送る。気付いた向こうも、きちっと型通りの敬礼を返してくれた。
シュウトの持っていた物と同じ格子模様の袋が、その脇に大切そうに抱えられていた。
-Happy St. Valentine's Day!-
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シュウトと長官というよりも、シュウトとその家族……ですか。
待ってくれている人がいるから、一緒に歩いてくれる人がいるから、多少の無茶もできると思います。
だからこそ最終回「帰り道」はすごく良かったです。思い出すだけで泣けてきた;
(2005/02/27)
バレンタイン企画でのお持ち帰りは終了しております。ありがとうございました!(03/08)
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