+++ お茶の時間 +++



 今朝から屋敷の主は楽しげに笑っていた。
 次元を超えて尋ねてきてくれた仲間と久方ぶりの再会に、とても機嫌が良いのだ。

 元気丸は今、シュウトと姫とザコ達と屋敷内で遊び回っている。
 数を数える声が聞こえてくる様子から、かくれんぼを始めたらしい。
 緑色の機械がせかせか走り、隠れる場所を探している。シュウトは姫の手を引いて、何処に行こうかと相談している。
 大人びていた彼女も、今では随分と歳相応の表情を見せてくれる。気兼ねなく付き合える友達を持ったことがなかったためか、異国の遊びに夢中だ。


 子供達の明るい様子を、大人達は微笑ましげに眺めていた。

「あ、若が数え終わった」
「破餓音丸、聞かれても教えるなよ。シュウトに怒られる」

 破餓音丸がそう呟けば、すぐさま爆覇丸が釘を刺した。違いない、と他の二人も笑う。
 あれだけ戦いを楽しんでいた騎馬王衆が、縁側に仲良く並んで湯飲みを携えている姿に、ゼロと爆熱丸は顔を見合わせていた。

「シュウト、そこは68.2%の確立で見つかってしまうぞ」

 キャプテンだけはいつもと変わらず、縁側をとたとた走っていった親友に教えてやっていた。
 シュウトはありがとー、と言い残して姫と一緒に奥へ行ってしまった。
 本当に嬉しそうな姫の顔を見て、ゼロは自然と笑みを零す。

「平和だな」
「おう。良い時代となったものだ」

 爆熱丸は視界の端で、真っ青な快晴を小鳥が舞うように飛んでいく姿を見た。
 戦の地鳴りも法螺貝の笛も、悲愴なまでに響き渡る合戦の音楽は何も聞こえない。
 目指していたものを手に入れた。けれど何故だか慣れない。

「天宮も騒がしいだけの国ではないということだな」
「何を! ラクロアは静か過ぎて落ち着かん!」

 飄々とするゼロに真っ向から対抗する爆熱丸。これもまた日常的なものである。
 それを始めて目にする騎馬王衆は、一瞬だけ目を丸くしてすぐに笑い出した。笑われたことに驚いた二人も、つられて吹き出した。
 キャプテンだけが不思議そうに首を傾げていた。



「オラー! 帰ったぞ! ザコ共、さっさと手伝え!」

 突然、門の方からかかった低い声に、ガンダムフォースの三人はぎょっとした。
 かくれんぼの最中だったザコ達は、一斉に隠れていた場所からそろりと顔を出し、慌てたように玄関へ走っていく。

「あの三人組、辛抱強くちゃんとここに住んでいるのか?」

 爆熱丸は浮かんだ疑問を、平然としている騎馬王衆にぶつけた。
 ザコ達がいる時点でも十分驚いていたのだが、侵攻軍の隊長達がいまだ脱走せずにここにいることの方が衝撃的だった。

「ああ。今日は外へ出していた。問題を起こしていなければいいがな」

 答えたのは奥から出てきた騎馬王丸だった。
 こちらも随分と表情が柔らかくなり、苦笑を浮かべているのがありありと分かる。
 移動し始めたザコ達に気付き、シュウトと姫もやって来た。

「へぇー、馴染んでいるんだねぇ?」
「良い兆候ですね」

 倉庫――かなりの大きさがあり、現在は元ダークアクシズの者達の住まいである――へと列を成して荷物を運び出すザコソルジャー達とザコブッシ達を見ていると、ネオトピアを思い出した。
 彼らも天宮できっと共存できるだろうと、シュウトは満足気に破顔した。

「馴染むしかねーだろーが」
「っていうかもう、慣れたよな」

 編み笠を、かぶるというより角に刺した状態でザクとグフがげんなりした様子で溜息を吐いた。中間管理職で培われた、言いようのない適応能力のせいだと思うとやるせない。
 ドムだけは楽しそうに倉庫の中へ駆け込んでいった。


 いつの間にか列は二手に分かれていて、一方が騎馬王衆の前までやってきた。
 荷が入った箱がそれぞれに受け渡される。

「これは?」
「菓子だ。元騎丸に買って来いと言われていた」

 最後に玄関の方から虚武羅丸がやってきた。足元には元気丸の姿が見える。
 また出迎えに行っていたのか、と騎馬王丸がそっと笑う。
 元気丸は、忍の隣から縁側へと走り出した。
 何だろうと、シュウトが思ったちょうどその時、小さい頭で精一杯見上げてきた子武者が言い放つ。

「お前ら、折角なんだから茶ぐらい飲んでけよ!」

 相変わらずなぶっきらぼうな態度に、一同は笑った。






 総勢十二人も縁側に腰掛けた光景は、きっと他では見られない。
 仲良く茶を注ぐ騎馬王衆や、配ってくれる虚武羅丸の姿も、これまた客人達には目を見張らせた。
 その度に騎馬王丸と元気丸がそっくりな笑い方で声を立てるものだから、シュウト達も思わず苦笑してしまう。

 最後に菓子が元気丸から配られた。
 それは一つ一つ丁寧に飾り紙で包まれており、決して安い物ではないことが知れる。

「元気丸、これは随分と高価な物ではないか。客とはいえこのような贅沢なものは」
「いいからいいから。つべこべ言うなって」

 天宮の不況を身を持って知っている爆熱丸が、謹んで返そうとすると元気丸は無理やり持たせる。
 客ではない騎馬王丸や騎馬王衆も同じ包みを持たせている。

「まあゼロ、天宮の技巧は素晴らしいものですわね」

 リリ姫のものだけは華やかな柄のついた包みだった。どうやら女性用のものらしい。
 ゼロも納得がいったようで、思わず感嘆の息を吐いた。

「でも何故?」

 キャプテンにまで渡されてしまい、シュウトと二人で元気丸の顔を窺う。
 彼は鼻の頭を照れ臭そうに掻きながら、最後にシュウトにも手渡した。

「シュウトが前に教えてくれただろ? この日は、感謝を込めて菓子を贈る日だって。だから……な?」

 元気丸は傍に立つ虚武羅丸に同意を求め、彼が小さく微笑むのを見てからまた前を向いた。
 微かに頬を赤くさせているのは気恥ずかしさのせいだろう。

「いつも世話になってる! それはおいらからの贈りもんだ。受け取れ!」

 最後は叫ぶように、彼らしい感謝の礼がなされた。

「若ぁぁ! 我らは今非常に感激しております!」
「立派になられて嬉しゅうございます!」

 それから怒涛のように始まる、感謝の返事に元気丸は少したじろぐ。
 慌てたように父親を見て、それから従者を見る。そして、異次元で出会った仲間達に、笑いかけた。


「じゃあさっきの、あいつ等が運んで行ったのも?」
「食い物やってもしょうがないからな。欲しいもん買わせてやっとけって虚武羅丸に言っといたんだ」

 包み紙の中身の和菓子を頬張りながら、シュウトは元気丸に尋ねる。
 豪快に笑いながら、屋敷の主はそう答えた。


 子供達の健やかな様子を見守りながら、騎馬王丸は空を仰いだ。

 空には雲一つ無い。
 この国が陰る日も、きっとないだろう。












 -Happy St. Valentine's Day!-




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ED後天宮+天宮組中心オールキャラ。です。こんな感じでよろしかったでしょうか…。
最初は別々に書いていましたが、だんだん似通ってきたのでこんな風になりました。
キャラクターいっぱい出すのは好きですが、まとめるのが大変です;
(2005/02/11)

バレンタイン企画でのお持ち帰りは終了しております。ありがとうございました!(03/08)



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