+++ Making Time +++



 今日も執務室に大量の書状を積み重ねている元気丸に、虚武羅丸がそっと茶を出した。
 ありがたくそれを受け取り、書き終えた物から順に手渡す。
 了承した虚武羅丸は、天井裏に控えていた他の忍達と共に姿を消した。


「うーん……腹減ったなー」

 流石に疲れた元気丸は首をこきこきと鳴らし、そう呟いた。
 途端、いきなり部屋の障子が勢い良くスライドし、大きな音をたてて開いた。

「おにぎり食べますか!?」×4
「毎度ながらお前ら一体どんな耳してやがるんだ?」

 仲良く斉唱された言葉に唖然とする。
 廊下をスライディングしてきたかのような体勢で、いつもの四人が勢揃いしていた。
 ちなみに障子を開けたのは、筆頭の爆覇丸である。
 壁に耳あり障子に目ありとはよく言ったもので、元気丸が何か所望をしようものなら、彼らは何処でも現れた。
 まさか自分の父親の時もそうだったのでは、と元気丸にしてはこめかみが引き攣りそうにもなる瞬間だ。

「まあ、食べたいっちゃ食べたいんだけど――」

 折角だからと思って要望を述べてみると、案の定、四人はどこぞのガンダムのようにぴしっと敬礼をして瞬く間に去っていった。
 取り残された元気丸は、腹心が淹れてくれた茶をとりあえず飲み下した。
 奥から威勢のいい武人達の声が響いてくるが、目を瞑ってみた。


 のだが。

 そうしたって怒涛のように聞こえてくるものは遮りようがなかった。




「ええいどけい! そこの海苔を取らせろー!」

 偉そうな態度の言葉とか。

「邪魔だ! はっ!? しゃもじはどこにいった!!」

 随分と混乱している様子の叫びとか。

「握り過ぎた……もう一回」

 尋常じゃない破壊音の合間に聞こえる呟きとか。

「どうだ! この素晴らしい形は!!」

 妙に自信満々に力説する声だとか。


 はっきりいって目も瞑りたくなる。
 台詞を聞くだけで何だか泣けてくてしまう。


 少し前まで、騎馬王丸の天宮制覇を支えていた猛将だと誰が信じるだろうか。
 元気丸はずきずき痛む目元を押さえ、呆れた溜息を吐き出す。
 その癖は父親とそっくりだったが、知らないのは本人同士だけだ。

「あー……ったく」

 頭をがしがしと掻きながらも、悪い気がしていないと感じる自分に苦笑した。
 結局、何てことない日常を嬉しく思っているのは彼らだけではないのだ。

 作って貰えた物は何でも嬉しいし、何より、自分のためにしてくれているという事実がくすぐったくて敵わない。
 料理なんてそんなに得意であるはずがないのに。


 たまには素直に「ありがとう」って言ってみようか。



「焼きが回ったもんだな」

 どたばたと戻ってきた四人分の足音に、元気丸はもう一度笑った。
 誰のが一番美味しいだろうと考えるけれど、きっと全部、温かな味が染み渡ることだろう。









 ちなみに。


「……機獣丸」
「はい?」
「これは……おにぎり、か?」
「はい。見紛うことなく、握り飯にございます」
「こんな不気味なものを若に食わせる気か!?」×3

 機獣丸の作ったおにぎりだけは、他の三人の手によってこの日を境に封印された。











 -Happy St. Valentine's Day!-




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騎馬王衆+元気丸。もうこの人たち、飯炊きのイメージが定着してしまっています…;;
機獣さんはおにぎりに関しては不器用だと思うのですが、どうでしょうか。勢いあまってぐしゃり。
逆に猛禽さんは器用っぽいです。でも何だか言動がスカイブルーの誰かさんに似てきていたり(何)
バレンタインというか、手作りプレゼント話でした。
(2005/02/10)

バレンタイン企画でのお持ち帰りは終了しております。ありがとうございました!(03/08)



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