Sky Blue
今日も快晴。多分きっと、曇ることはないだろう。
「だからって何でこんな……」
「いいじゃないですか。たまには息抜きしたって」
息抜き、息抜きといいながら、赤と青の双子が金髪の青年を引っ張っていく。
ラクロアの城が一望できる小高い丘の上の、てっぺんに立っている木の下まで。
ヴァイエイトが大きめのバスケットを持ち上げて、メリクリウスがベッドのシーツよろしく下敷きの布を広げる。
その上に最初に座ったのは、もちろんトールギス。
「……何気にトールギス様だって馴染んでらっしゃるじゃないですか」
そう横目で見てみる彼は、白い陶磁のティーカップを優雅に傾け、スコーンをほおばっている。
隣ではメリクリウスが嬉しそうにドーナッツを食べていた。
眺めは最高だった。
青い空に良く映える、白亜の宮殿が遠めに見え、辺りは輝かんばかりの萌黄色に包まれている。
今年もまた、こんな季節がやってきたのだな、と感慨深く思う。
ヴァイエイトはカップに紅茶を注ぎながら、のんびりと天を仰いだ。
類稀無い穏やかな気候と、流れ込んできた空気により、今年の青い薔薇は良く育った。
王族専用の庭園にも、また何気ない小道の脇でもその姿は見て取れた。
美しい花は心を和ませたが、それと同時にトールギスに苦い気持ちを思い出させる。
だからヴァイエイトもメリクリウスも、誰もが褒め称えるこの薔薇に、興味を示すことはまるで無かった。
――それでも。
「……綺麗だな」
ぽつりと。主の呟いた声に反応し、二人は同時に顔を上げた。
城の方から、丘の方へと強い風が吹き寄せていた。
風に乗るのは青い花弁。
花弁を乗せる、荒々しくも潔い風は、主の持つ称号。
「……ええ」
「そうですね」
しばらく三人は無言で、幻想的な乱舞を見送った。
決して好きな花ではない。だが美しいものは、どんなものであれ愛でることができる。
「やっぱり花って散り際が綺麗なんでしょうね」
「最後の最後でばぁっと広がるのは良いですよね」
双子らしく、二人は声を揃えてそう言った。
あまりにも揃っていたので、トールギスがしばらく目を丸くしていた。
珍しい顔に、二人も驚いたような表情を浮かべる。
それから何処からともなく、笑いが込み上げてきた。
丘の上には絶え間なく、楽しそうな声が響いた。
「雨の匂いがするな」
トールギスがそういって、息抜きという名のピクニックはお開きとなる。
空はいつのまにか重い色になっていた。風が強かったせいで、天気がすぐに変わったのだろう。
三人は急いで丘を降り始めた。
名残惜しげにさっきまでいた場所を見つめた三人は、振り切るように踵を返した。
多分、この先の未来で再びここに来ることはないだろうと。
覚悟を決めた瞬間でもあった。
「降ってきちゃいましたね」
「家まで競争しましょうか」
頬に当たった水滴に気付き、ヴァイエイトとメリクリウスはもう一度声を揃えた。
今度はさすがにトールギスも間髪入れずに笑い出す。
そうして三人は、誰もいない夕立の中を一斉に走り出した。
-END-
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すごく仲良さげな雰囲気ですが、こんな感じが好きなのです。
時間的には、ガンダムではない騎士の三人が反乱を起こすちょっと前。
T様の怨み辛み(?)から、突発的なものではなくてじわじわ来ているのかな、と。
(2004/09/08)
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