** 西瓜模様 **



 いつものようにジェネラルの間へと足を運べば、その出入り口に怪しげな縞模様の物体が放置されていた。
 丸いそれは始めて見る造形物で、ガーベラはしばし距離を保ち観察することにした。

「……プロフェッサー?」

 睨み合いがしばらく続いた頃、彼の背後から声がかかった。
 嫌な奴にあったと雄弁に語る顔を隠そうともせずに、サザビーは自分より幾分か小さい上司の姿を眺めていた。

「コマンダー。お前はあれが何か分かるか?」
「これはまた……奇怪な物体だな」

 ガーベラはさして気にした様子も無く、緑と黒の模様に彩られた球体を指差す。
 サザビーは首を傾げ、おもむろにファンネルを飛ばしてみた。遠隔操作のそれを球体に近づけ、先端で恐る恐る突っついてみる。

 なかなか硬い。
 叩くたびに、小気味の良い音が響いた。

「有機物みたいだな」
「いや、生体爆弾かもしれん」

 マゼンダとサーモンピンクはモノアイでそれを睨みつけた。
 有機物であっても、爆弾であっても、この場所に不釣合いであることには変わらない。
 攻撃態勢に入った二人の背後から、またまた声がかかった。

「おやおや、お揃いですか? 珍しいこともあるのですねえ?」

 この、やたらと耳に付く喋り方。
 またも厄介な相手が現れたな、とガーベラは忌々しげに振り返った。

 予想に反して、後ろに立っていた者は二人いた。
 何やら楽しげに目を細めて浮かんでいる、得体の知れない黒い影。
 そしてその半歩後ろに、呆れた視線を投げかけているやたらと髭の大きな武者が。

「貴様等こそ珍しい。まあ丁度良い。あれを処理しろ」

 ガーベラもサザビーも心底触りたくなかったため、良いタイミングで現れた二人にそう命じた。
 するとデスサイズは瞠目し、騎馬王丸の方に振り向いた。

「騎馬王丸、あれじゃないでしょうか?」
「ああ、こんな所にあったのか」

 赤い二人には目もくれず、騎馬王丸は球体に近づいた。そして軽々と持ち上げる。
 どうやら爆弾ではないような雰囲気だが、何しろガーベラとサザビーにはその物の情報がインプットされていない。
 持ち主らしき騎馬王丸に、探究心の強いガーベラは思わず尋ねた。

「それはお前のか。一体それは何なのだ?」
「知らんか? 西瓜という果物だ」

 スイカ、とガーベラはオウム返しに呟いた。
 そしてしげしげと丸い果実を覗き込む。

「何故ここにあるのだ?」

 観察し出したガーベラに溜息を吐き出し、サザビーは疑問を投げかける。
 騎馬王丸が持ってきたとしても、こんな所にまで勝手に転がってくるわけも無い。

「ああ、多分あれでしょう」

 答えたのはデスサイズだった。彼はちらりと後方の廊下の角を見やった。
 こっそり隠れているのかは知らないが、緑色の丸い頭が見えている。
 幹部の全員が振り向いたものだから、彼らは驚き飛び上がった。どうしよう、という声が聞こえたが、意を決したのか全員が出てきた。

「ザ、ザコ達が動かしたザコー。新しい武器かと思ってガーベラ様のところに聞きにいこうとしたザコ!」
「でもでも、有機物みたいな感触だったから、思わず落としちゃって……こっちの方に転がって行っちゃったザコ」
「ごめんなさいザコー!」

 コミカルな動きをしながら謝るザコソルジャー達に呆気に取られ、一同はとりあえず現場監督のサザビーを見上げた。
 困ったように一つ目をきょろりと動かしたサザビーは咳払いをした。

「あー、まあ。諸君等の向上心に敬意を評し、お咎めはなしだ。気にするな」
「本当ザコ? さすがコマンダー様ザコー!」

 まごついていたザコ達は一転して明るい顔になり、わぁわぁと歓声を上げる。
 大げさだ、と思いながらもほっと息をついたサザビーに、三種類の視線が刺さった。

「優遇が違うな……。甘い」
「できた上司ですねぇ。どこかの誰かにも見せてやりたいものです」
「見直したぞ、コマンダー」

 再び咳払いをしたサザビーは、騎馬王丸の手の中の物を見た。

「ところでそれはどうする気だ?」
「ああ、貰ったその足でこっちに来たからな。持って帰る。何なら今食べるか?」

 さも当然のように恐ろしいことを言われ、有機物嫌悪症な二人は三歩ほど退いた。
 デスサイズだけはさっぱり目的の分からない笑みを湛え、「いいですねぇ」などと呑気な事まで言い出した。

 結局何しに来たんだっけとガーベラは障害物の無くなった扉を眺めながら、いつまでも騒がしい喧騒の中に浸っていた。




 しかし、後日のこと。
 前線部隊のために補給を行ったサザビーは、あの緑と黒の縦縞模様が描かれた丸い爆弾を大量に見ることになる。

「……意外に気に入ったのか、プロフェッサー」

 ザコ達が喜んでいる姿を見ながら、彼は最近多くなった溜息を再び吐いたのだった。




-END-




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残暑見舞い申し上げます。DAアダルト面子でお贈り致しました。
ZGDの三人が入らなかったことに悔いつつ、ザコにやたらと甘いコマ様を書けた事に満足。
しかしこの小説の騎馬様とでっちゃん、何気に仲良しっぽい…;
(2005/08/24)

この小説は残暑見舞いで配布していました。
お持ち帰りありがとうございました!
(2005/09/05)


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