++ R O S E ++
あなたのことばだけが
「リリ? そうだと思うだろう?」
あなたのことばだけが
わたしにとってすべてだった
「リリ? 聞こえている?」
こわれてしまったの
あなたのじゅんすいなきもち
まがってしまったの
だからわたしはここにいる
「ここは暗い場所だね」
だからわたしはここにいる
「暗くて寒くて……寂しい場所だ」
わたしが、ここにいる
主の黒い御身はきっと冷たいことだろう。
心すらすでに悪魔に売り渡した。
きっとそこには温かさの欠片も無い。
主がその表情の無い仮面の上で、優しく微笑むのは一時だけ。
けれどその顔がどれだけぎこちないものなのか、彼は気付けない。
間違っているのに、気付けない。
「デスサイズさま」
呼びかければちらりとだけ視線を寄越し、主の無感情な瞳が身を貫く。
痛いはずは無い。だってわたしには心がないのだから。
主はぼんやりと何も無い宙を見つめる。
手を伸ばして、空を掻き、虚無だけを掴む。
あの手の先には、彼が夢見る世界が本当にあるのだろうか。
「夜が明けますわ。外へ、行くお時間です」
機械的に、毎日続けられている言葉を口にする。
無言のままで主は振り返る。
ぽっかりと何かが空いてしまった気配は気薄だった。
「リリ、どうして笑ってくれないんだい」
うわ言のように繰り返される台詞。
まるで全てを忘れてしまったかのように、彼は突然無機物に成り下がりもする。
何事からも自身を拒絶する壁の存在が、自らを絡めていることに気付かない。
だからわたしは、ここにいる。
鉄の鎧はわたしを拒むけれど。
冷たい彼の体温をわたしは温められないけれど。
回した腕でそっと抱き寄せてみても、わたしの身体に回されるものは何も無いけれど。
見返りなんてないのだから構わない。
わたしはここにいる。
だから、あなたにひつようとされている。
だからわたしは――。
「リリ……どうすれば笑ってくれる」
伸ばされる手は、何を求めているのかふらふらと彷徨うばかり。
地上を満たしていく朝の空気の中で、暗がりの王国には一条の光も注すことはなかった。
わたしがいますから。
どうか、この暗闇よ、明けないで。
せめて、返される笑顔の温度を知る時まで。
せめて、わたしがわたし自身を信じられる時まで。
いつか銀翼の天使が、あなたという残酷な死神を裁きに来るときまで――。
-END-
---------------------------------------------------------
黒リリ姫のお話。シュウ(黒)リリは大プッシュしておりますが、
ここはやっぱりD様中心サイトでした……。
夢想が激し過ぎて現実と混ざってしまった病的なデス様。
返されることのない想いを持つ人は、返される愛情に飢えている。
だから彼女もまたシュウトに惹かれたのかなとか思っています。
(2004/12/28)
←←←Back