** 綱引き **




 巨大な綱引きだ、と爆覇丸は密かに笑ってしまった。
 まるで童心に返ったように、訪れた平和の中に甘んじながら声を張り上げ、戦友達と太い綱を引く。
 引っ張り上げるのはひっくり返った天地城なのだが、それがまた一層微笑ましいものに思えた。

 戦いが終わってしまったというのに。騎馬王丸の野望が潰えてしまったというのに。
 胸に満ちる開放感と安堵感が、むず痒かった。

「爆覇丸、何笑ってやがる! 気色悪いぞ!」

 零れる笑みを耐えているため、微妙な表情になっていた爆覇丸を見た猛禽丸が嫌そうに顔を顰めた。
 だが、そう言われてしまうと逆に耐えていたものが込み上げてきてしまうものだ。

「くくっ……何だかおかしくてなぁ。わし等がこうして今いることが」
「まぁ、不思議な居心地だな」

 その言葉に同意を示した機獣丸は、手に余る綱を引っ張り上げながら相槌を返した。

「ほらほら無駄口叩いてないで、もっと思いっきり力をいれてよ」

 彼らの朗らかな空気を呆れて見ていた破餓音丸が、少々拗ねたようにむくれた。
 彼は先の戦いで装備を失っているので、比較的身軽な格好で一生懸命綱を握っている。

「天地城の落とし前はこっちがつけなくちゃいけないのに、あっちの方が頑張っているじゃないか」

 あっち、と言われた三人は、一瞬顔を見合わせ、それから指差された方を見やった。


 破餓音丸が指差した方では、元気のいい声がそこら中から飛び交っていた。
 新たに取り付けた飛行能力を精一杯使い、ガンチョッパーズが七人で息をそろえて綱を引っ張っている。
 音頭を取っているのは、彼らの兄貴分であるガンイーグルだ。

「イーチ! ニッ! どうしたー、力出てないぞ!」
「はい!」

 七人分の返事を受けながら、イーグルもまた綱を強く握りこむ。
 何たって、あの魔人をも倒したガンダムフォースの一員である自分がとても誇らしく感じられ、最も敬愛しているキャプテンから直々にこの天地城を引き上げることを頼まれたのだ。
 それはもう、ジェネラルに立ち向かって行った時と同じくらい、力が出るものだ。
 ガンチョッパーズもまた同じなようで、今まで留守番ばかりだったせいか一層やる気を出している。

「よっしゃあ! キャプテンの期待に答えなくちゃな!」
「はい!」


 目を輝かせている若人達。
 自分にもあんな頃があったな、と爆覇丸はますます感慨深く頷いた。

「って頷いている場合じゃねぇぇ!」
「うおっ、突然どうした猛禽丸」

 親父臭い反応を示す爆覇丸に対して、猛禽丸は憤慨した。

「俺達もさっさとこれを引き上げるぞ! 正式な受け渡しはしてないのだから、この城はまだ騎馬王丸様の物だ! あんな余所者にこれ以上好き勝手させられるか!」
「おお、そうだな! 騎馬王丸様、貴方様に仕える我等の最後の務め、立派に果たしますぞ!」

 燃える二人に呆気を取られ、機獣丸と破餓音丸は思わずぽかんとした様子で顔を見合わせた。
 けれど、徐々に込み上げてくるのは笑みで。

「じゃあ、俺達も頑張るか」
「ああ!」

 騎馬王衆の手は、再度強く綱を握り締めた。







「ねぇ騎馬王丸」
「何だ?」

 治癒の魔法を受けた騎馬王丸は、シュウトに呼ばれて怪訝な表情のまま振り返る。
 そこにいた少年は、何だか嬉しそうな、困ったような笑顔を浮かべている。

「騎馬王衆に激励飛ばしてみてくれない?」
「? 何故だ?」

 尋ねて見ると、シュウトは身体をどけて、大きな綱引きをしている仲間達を騎馬王丸に見せた。
 ジェネラルと戦っていた時の共同作業は何処へやら、部下であった四人と、シュウト達の仲間である八人が、何やら互いに言い合っている。
 お騒がせ役のダークアクシズの残党達は、それを唖然とした様子で見守っていた。

 聞こえてくるのは、騎馬王丸様は凄い、だとか。キャプテンは素敵だ、とか。

「どうも我々が原因らしい。一緒に言ってはくれないだろうか」

 シュウトの隣に立つキャプテンも、顔には出ていないものの困った様子だった。
 全く、と呟きながら騎馬王丸は歩き出した。

 二人の背中を見送りながら、シュウトは溜息を吐き出す。
 眉を顰めながらも口元だけはどうしても笑ってしまう。そうして出来た困り顔で、シュウトはやれやれと肩を竦めた。

「似た者同士なんだって、何で気付かないのかなぁ」

 そのぼやきを近くで聞いていたリリは、くすくすと声を立てて笑った。


 少し遠くで、嬉しそうな歓声が揃って上がったのは聞き間違えではない。






-END-




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放送終了一周年記念企画にて、リクエスト頂きました。
騎馬王衆がメイン臭くなちゃったけれど……四人とイーグルとチョッパーズな話。
きっと憧れの人から声援を貰っちゃうと、俄然やる気の出る方々。
でもって憧れの的だと気付いていない、キャプと騎馬様。
どっちも似た者同士ということで。

(2006/03/02)

記念企画のお持ち帰りは終了させていただきました。ありがとうございました。(03/10)

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