** 貧乏神はいつも君を見ている **
今日も今日とて、シュウトの家にはゆったりとした時間が流れていた。
隣に住んでいるセーラがケーキを焼いて持ってくると聞き、シュウトはうきうきとした気分でテーブルの前で彼女の来訪を待っていた。
その周りには、いつものようにキャプテンとゼロと爆熱丸が漫才のようなやり取りをしている。
「こんにちわ〜。皆さんお揃いですのねー」
「ああ! いらっしゃいセーラちゃん!」
じっと三人を見ていたシュウトは、来訪者の声にばっと立ち上がった。
彼女の手の中に、お馴染みのバスケットが入っていることを目聡く確認し、少年は喜色満面の笑顔を浮かべた。
「実はー今日はーフェンちゃんに特製ケーキを焼いてきましたの」
「ええ!? 僕の分はー?」
巨大な毛玉は大きな瞳を瞬かせ、にっこりと笑う少女と見つめ合った。
シュウトの慌てたような声に、キャプテンが首を傾げる。
「シュウトはいつも運がないな」
「日頃の行いが悪いのではないか?」
セーラのケーキを羨ましげに見つめながらも、相棒のフェンが貰っているため目くじらを立てないゼロは皮肉げに笑っている。
シュウトは恨みがましくゼロを睨んだ。
彼との初対面の際に、セーラのケーキを横から掻っ攫われたことを実は結構根に持っているのだ。
「おいしいですかー、フェンちゃん?」
「ふぇーん!」
ほのぼのとした少女と一匹、それから何だか不穏な空気を纏っている少年と騎士を眺めながら、爆熱丸は先日倒したばかりの兄弟子を思い出した。
既に感傷は通り越しており、単に思い出に浸る程度だったが。
「おや、フェン。私にもくれるのか? ありがとう」
「あーーー! ずるいーーーー!!」
結局、フェンから横流し(?)されたケーキを食べるゼロに、シュウトは頭を抱え込んだ。
「……シュウト、嘆くな。これくらい、男なら我慢しろ。いつかきっといいことがあるからな」
少々遠くを見つめながら、シュウトの肩を叩く爆熱丸。
その落ち着いた――というよりも諦めた――様子に、シュウトは訝しげに彼を見た。
「爆熱丸? まだ元気ないの?」
「大丈夫か?」
その姿に、阿修羅丸を討ったことがまだ心残りなのだろうかとシュウトとキャプテンが心配そうに覗き込んだ。
けれど爆熱丸は溜息を一つ吐き出して、ぽつりと零した。
「色々と思い出していた。子供の頃……孔雀丸とまだ仲が良かった頃を」
奥まった森の中、決して狭くは無い屋敷がぽつんと建っていた。
人気があまりないその建物からは、それでも元気な子供達の声が――この日もやたらと大きく響き渡っていた。
「くーーーーじゃーーーーくーーーーーまーーーーるぅぅぅぅ!!!!」
憤慨したように肩を怒らせながらも、半分涙目な爆熱丸は兄弟子の名前を恨みがましく叫んでいた。
その視線の先には、空っぽの箱。
「そうがなるな爆熱丸。饅頭の一つや二つや三つくらい」
「三つー? 明らかに十個は入っていただろ!」
飄々とした様子で孔雀丸は、その箱をひらひらと動かして見せた。
中身は確かに無い。
人里にあまり下りることのない彼らは、時折買い物に出かける覇王丸の土産がいつも楽しみの一環だった。
けれど贅沢もできないため、その土産は必ず一つだった。
二人が喧嘩しないよう分けられる物を買ってくるものの、この饅頭のように先に沢山食べてしまえば分けようもない。
「こないだだって、俺が罰の掃除やってる最中に全部食ったじゃないか!」
「罰なのだから食べられないのは当たり前だろう」
抜け抜けとした態度は、怒りで冷静さを欠いている爆熱丸とは対照的だった。
武者として冷静なことは良いことだが、孔雀丸の場合は確信犯的な清々しい笑みを浮かべているためか爆熱丸には悪魔が笑んでいるようにしか見えない。
「お前はいつもいつもそうやって、さも自分を悪くないようにっ!!」
「要領が悪いんじゃないか?」
爆熱丸は今でされたことを思い返しながら、さらに頭に血が上っていくことを感じていた。
例えば、師匠の花瓶を割ってしまった時。
孔雀丸は手早く水を被った爆熱丸を拭いてやり、散らばった欠片を端に寄せてくれた。
兄弟子らしいその行動に、不覚にも泣きそうになった爆熱丸だったが、次の瞬間本当に泣いた。
「しっしょうー! 爆熱丸が割った花瓶の証拠隠滅を謀ってまーす!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!!!」
鼻歌を歌いそうな勢いで踵を返した孔雀丸は、絞った雑巾を爆熱丸にぶち当てて逃走した。
そして、彼本人は逃げる間もなく――。
「いい度胸だな、爆熱丸?」
鬼と化した覇王丸に、襟首を掴まれた。
ここまでやれば虐めじゃないか、と爆熱丸は師匠に色々と告げ口してみた。
が、常々真面目で思慮深いと装っている孔雀丸と、悪戯盛りの爆熱丸とでは信頼度が元々違う。
覇王丸も気付いているだろうが、笑顔で「何とか出し抜いてみろ」と爆熱丸を励ますだけだった。
「そう言われても中々出来なくてなー。師匠から刀を二振りとも貰ってしまうというのが、人生最大の出し抜き方だったなぁ」
あっはっは、と笑う爆熱丸に、二人は黙り込んだ。
「きっと孔雀丸は刀を全部持っていかれるかもと思って、あんな苛め方をしたのかもなぁ」
感慨深げにしている爆熱丸だが、何だか半分清々しているような顔だった。
その出し抜き方が、また後々の復讐劇を作り出したのだが――本人の中ではあまり繋がっていないようだ。
きっと今後も爆熱丸は無意識に騒動を持ち込むだろうと、キャプテンだけは冷静に判断を下した。
爆熱丸が次元の狭間で小生意気な武者におちょくられたり、天宮に戻って早々に武里天丸に疑われて散々な目に合うのは、もう間もなくのこと。
-END-
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放送終了一周年記念企画にて、リクエスト頂きました。
爆熱丸でギャグ。……ギャ、グ…??;;
相変わらず武者の人達は貧乏くじ引きまくりです。
こんな孔雀と爆を書いてますが、仲良しですから!!(苦)
(2006/02/26)
記念企画のお持ち帰りは終了させていただきました。ありがとうございました。(03/10)
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