** 僕らはいつでも共同作業 **


「長官」
「なんだい、マドナッグ」

 書類を提出しにやって来たマドナッグに、ハロ長官は珍しく呼び止められた。
 重たそうな頭を傾げながら、彼は目の前の黒いモビルディフェンダーを見下ろした。
 いつもながら、有無を言わせない威圧感を伴う鋭い瞳。
 何か嫌な予感がする、と彼は手袋の下で汗をかいた。

「給料下さい。今すぐ」



 基地内に響き渡る凄まじい足音に、開発部の者達は驚き顔を見合わせた。
 何せその轟音は、徐々にこの部屋に近づいているのだ。

「誰だよ、新年早々うるさくしているのは」

 ベルウッドは悪態をつきながら、廊下に続くドアを開く。
 研究員達は一斉にその向こう側を覗き込んだ。
 そしてぎょっとした。
 奥から物凄い勢いで人影が走ってくる。確かめずとも分かる外見は、彼らの上司だった。

「主任ー! 主任はいるか!」
「いますから、ちょっと落ち着いて下さいよ」

 明らかに狼狽した様子の長官に、ベルウッドは不思議そうな顔をした。
 そこで、彼は気付いた。
 長官に掴まれている、黒い物体に。

「長官、私は正常だぞ。年越しの際に全てチェックを受けている。主任も忙しいのだから余計なことをせずに、私の用件を早く済ませて頂きたい」

 一応の上司に対しても、いつもの辛い口調でマドナッグは不服そうに言った。
 研究員一同は困惑したように、カオ・リン主任の方を一斉に向いた。

「長官、マドナッグの言っていることはホントね」
「し、しかし給料が欲しいだぞ? 今まで物品に何の興味も持っていなかったのに!」

 その言葉に、一同驚きの表情を浮かべた。
 マドナッグはびくりと身を竦ませ、その場にいる者達を見回した。

「おや、長官こちらでしたか」

 その時、開発部の扉からディードがひょいと顔を覗かせた。
 漂う異様な空気を物ともせずに、彼はニコニコ笑いながら手を差し出した。

「申し訳ありませんが、お給料って貰えますか?」





「お前、さっきのは本当に寒気がきたぞ」
「そうですかぁ? 私は至極普通にしていただけですけれど?」

 マドナッグとディードは基地の上――つまり雲の上で、のんびりと空を見上げていた。

 あの時のディードの満面の笑顔と、おねだりの言葉に部屋にいる全員がフリーズしてしまった。
 ディードはおやおや、と大して困りもしていない様子で笑い、ややこしい話の中に捕まっていたマドナッグをここまで連れ出してきていた。

「貴方はいつもスクラップを与えておけば満足だから、皆驚くのは当たり前ですよ」

 聞き捨てならない言葉にマドナッグは反論しようとしたが、思い出すのは意気揚々と解体作業を楽しむ自分の姿。たまに机に向かったとしても、鼻歌交じりで改造用の設計図を書いている。
 ぐうの音も出ないとはこのことだろう。
 久方ぶりに口で勝ち負けがはっきりし、ディードは楽しげに笑い声を上げた。

「まぁいいです。私も居候の身ですから、お金なんていらないと思っていたのですけれど」
「そうだ。お前はどうしてあんなことを?」

 自分を助けるためじゃないだろう、とマドナッグは呟く。
 ディードは勿論といったようにこくりと頷き、懐から何かを差し出した。

「……何だコレは」

 可愛らしい花模様の紙で出来た小さな袋を、マドナッグはしげしげと見つめた。

「ぽち袋ですよ。ナナにお年玉上げるのでしょう? セットで覚えておいた方がいいですよ」

 マドナッグは思わず顔を上げた。
 何故分かるのかと、ディードのことを凝視している。

「ま、長年のオトモダチですから」

 彼は可笑しげに笑んで、雲の上に寝そべった。



「というわけでご協力お願い致します、お父さん」
「誰が誰のお父さんだ」

 給料をせしめる事は諦め、二人は基地内の和室にお邪魔していた。
 これから一服、とこたつにいそいそと蜜柑と緑茶を持ってきていた騎馬王丸は明らかに迷惑そうな顔をした。

 元はジェネラルの御前で牽制しあっていた三人が、今こうしてこたつを囲んでいる。部下に見せたら泣くんじゃないかと思うが、当の本人達は気にした様子もなく蜜柑をそれぞれ剥いている。

「給料か……まあ基本的にお前等はタダ働きだからな」
「全くあの緑頭はケチだ」

 もそもそと食べることのない蜜柑の皮を剥ぎながら、マドナッグが愚痴った。ちなみに裸になった蜜柑は、次々と横流しされていく。

「だから普段から貰っておきなさいって言っていたでしょうが。キャプテン達はプライベート用できちんとお小遣いを貰っているみたいですよ」
「初耳だ」

 お年玉をどこから捻出するか、すでに二人は考えを放棄したようで、いつものような会話が頭の上で飛び交う。
 律儀な騎馬王丸は頭を唸らせ、色々な案を出してみる。が、中々良いものは浮かばない。

 先日里帰りした際、自分の息子には「若くないんだから無理すんなよ」と労いの言葉を貰ったばかりだ。
 貰ったわりには、しっかりお年玉代わりの土産をせびられたが。

 少しばかり苦い思い出を思い返し、はたと騎馬王丸は顔を上げた。
 自分はネオトピアの土産は一体どうやって買ったのだろう。

「そういえば俺は貰っていたな、給金」
「騎馬王丸、恵め」

 命令口調でマドナッグはぽち袋をずいと差し出した。
 もちろん、袋は三つ。




 三人はいつも通り、ナナと約束していた場所に降り立った。
 遊び場の草原の中で、彼女は大きく手を振っていた。

「こんにちわ、ナナ。お年玉は貰いました?」
「うん!」

 照れ臭げに笑う彼女は、首から提げた財布を大切そうに抱えた。
 そんな彼女の様子を見て、三人は微笑みながら顔を見合わせた。

「これは私達からだ。今年もよろしくな、ナナ」

 同時に差し出された三人の手の中と顔を見比べ、ナナは大きく頷いた。
 とても嬉しそうにはにかんで。



「じゃあこれからギター買いに行ってもいい?」
「流石にこれじゃあギターは買えないと思いますよ、ナナ」
「じゃあクマさんは?」
「ああ、あれは買えるな」
「買ったのか、お前は」
「……」
「そういえば、ナナはキャプテンさん達からもお年玉貰ったの。マドちゃん達はおにーちゃんにあげた?」

「「「……あっ」」」



 そんなこんなで、四人は市街地へ買い物に出かけた。
 楽しげなナナの隣で、大人三人がうんうん唸っていた。

 ――再びこたつに集まる日は近い。



-END-




---------------------------------------------------------
放送終了一周年記念企画にて、リクエスト頂きました。
アホい三人でごめんなさい;実際、給料が支払われるのだろうか、S.D.G。
一応、うちでは騎馬様のみです。ご協力感謝金。
マドとでっちゃんは半分居候状態なので、普段は断っています。むしろ興味が無い?

(2006/01/06)

記念企画のお持ち帰りは終了させていただきました。ありがとうございました。(03/10)

←Back