** Presentiment of love **


 からから、と大きな鈴が響く。
 閑散とした境内には他の人影はなく、手を打ち合わせる小気味の良い音がよく通った。

 天宮のとある神社で、彼らは新年の初詣を行っていた。
 年末まで任務に明け暮れていたのだから、寄り道くらいいいだろうと将軍に送られたのは見事な初日の出の上るアナハイム山。
 あまりの眩しさに、爆熱丸などは感涙していた。

 その時の様子を思い出し、シュウトはくすりと笑った。

 皆で朝日に向かって、明けましておめでとう、と大声で叫んだためか、何やらずっと清々しい気分が続いている。
 元気丸や武里天丸達にも挨拶に行き、今はこうして皆で神社にやって来ていた。
 急なことなので晴れ着はなかったが、新しい年を迎えたのだと今更ながら感じ取れる。

 願い事を終えた後、シュウトは顔を上げた。
 隣で共に手を合わせたリリは、まだ俯いたまま何かを呟いていた。
 聞き耳を立ててみると、何やら沢山の願い事があるようだ。

(リリ姫……神様はサンタクロースじゃないんだから……)

 ――天宮での習慣が慣れないのか、その願い事の中に物品の所望も幾つか混じっていた。
 シュウトは苦笑したが、最後の方に聞こえてきた祖国を案じる言葉に優しい瞳を向けた。

「それから――が、振り向いてくれますように」
「え?」

 聞き覚えのあるような名を聞いた気がして、思わずシュウトは声を出してしまった。
 はっとしたリリが顔を上げた。
 頬を真っ赤に染めて、彼女は眉を寄せ上げた。

「まぁ、シュウト! 人の願い事を盗み聞きするなんて!」
「ご、ごめんってば!」

 慌ててシュウトは石造りの階段を下りて行った。
 あの調子では最後の一言が聞こえなかっただろう。そう考えたリリは、ほっと安堵の息を吐き出した。
 まだ顔は紅潮したままだった。


「姫、どうかされましたか?」

 急いで降りて来たシュウトを怪訝に思ったのか、ゼロが不思議そうな表情を浮かべて階段を上がってきた。
 とても焦っていた自分に対して、その落ち着きようが何だか癪に障る。
 リリは八つ当たりも同然に、つんとそっぽを向いた。

 そこで、はたと目に入ったのはシュウトとキャプテンが手にしている白い紙切れだった。
 無視しようかと思っていた騎士に、彼女は尋ねた。

「ゼロ、あれは何かしら?」
「あれはおみくじという占いの一種らしいです。先程、爆熱丸が吉如きで大喜びしていましたよ」

 言われて視線を動かせば、爆熱丸が意気揚々とした様子でその紙をご神木に張られている縄に括りつけていた。
 ああして祈願するのだ、とゼロはリリに教えてくれた。

「姫も引く? 僕は中吉だったよ」
「私は大吉だった。なかなか興味深い」

 係りの人にお金を払い、シュウトがおみくじを乗せた盆を持ってきてくれた。
 リリは紙をじっと見つめていたが、はたと隣の従者が気になった。

「貴方はどうでした、ゼロ?」
「わ、私は、ですね……」

 途端に焦った様子のゼロに、どこで聞いていたのか爆熱丸が得意気に言葉を引き継いだ。

「凶だ! 日頃の行いが運を呼ぶとはこういったものだな!」
「うるさい! 今年はまだ始まったばかりだ。上がり調子になると書いてあったのだから、まだまだこれからだ!」

 今年初めての口喧嘩に呆れながら、再びリリは盆を睨み付けた。
 勘には自信があると自負している。

(何か、また勘違いしていそう……)

 仇を見るような目つきの彼女を見ながら、シュウトは内心で冷や汗を流していた。
 賭け事じゃないんだから、と彼は青い空を見上げた。


 シュウトの心配を余所に、リリはすぐさまおみくじを引き出した。
 はやる気持ちを抑え、糊でくっついている紙をゆっくりと剥がしていく。

 先程見せられたシュウトとキャプテンのおみくじ。幾つかの欄には、学業や健康など様々なことについての注意が書かれていた。
 その片隅の、恋愛という文字をリリは見逃さなかった。

 シュウトはキャプテンとゼロと共に、談笑をしながら縄におみくじを結び付けていた。爆熱丸は、いまだにゼロをからかっている。
 彼女は彼らの背中を見つめながら、折られていたおみくじをそっと広げた。

「あ」

 そうして上げてしまった声は、落胆だったろうか。歓声だったろうか。



「姫ーどうだったー?」

 しばらく立ち竦んでいた彼女に、シュウトが手を振った。
 彼女は歩きながら、皆と同じようにおみくじを細く折り畳み直した。そして縄にそっと結びつけた。
 想いごと、結ぶように。

「わたくしも凶でした。ちょっと残念かもしれません」

 そう言いながらも、彼女は笑顔だった。
 さすがリリ姫、ヘタレ騎士とは違うな、と爆熱丸が呟いた。勿論、しっかりとゼロの元に届いていたため、再び他愛のない口論が始まる。
 シュウトとキャプテンは顔を見合わせながら、呆れた様子で笑う。
 そして、境内を後にした。

 鳥居を潜る前に、リリは一人ご神木に振り返った。
 そしてにっこりと笑うと、四人の元へと駆け出す。

 今年もまた、冒険が始まる。



 ――貴方の運勢は凶。これから上がるでしょう。

 ――恋愛は傍らの意中とは、想いが通じ合うかもしれない。


 ――……貴方次第です。



-END-




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放送終了一周年記念企画にて、リクエスト頂きました。
リリ→シュウで明けましておめでとうございますv
正月ネタだったので急いで仕上げました。さらっとした感じですが、愛を込めて。

(2006/01/05)

記念企画のお持ち帰りは終了させていただきました。ありがとうございました。(03/10)

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