祈る事は嫌いじゃない。
歌う事は嫌いじゃない。
舞う事は嫌いじゃない。
精霊を祀るため。樹を讃えるため。神を崇めるため。
――正しき騎士の道を歩くために。
だけど私が望むのは貴女だけ。
貴女の笑顔を作り出すのが私のその行為というのならば、どんなに苦しくても私は舞台で演じ続けよう。
貴女のため。私のため。
ねぇ、何が間違いだというの?
「降れ、黒き鋼の竜よ」
嘲笑うのは冷たい表情を浮かべる騎士。
空には七度陽が昇り、八度目の闇が訪れていた。
七曜を巡る時が過ぎても、彼は向かい合っていた精霊竜から一度も目を逸らさずにいた。
唸り声を上げていた竜は、硬質な双眸を騎士に向けたまま黙っていた。
金の仮面にも似た顔を微動させず、彼をじっと見つめている。
感情のない視線に冷笑を返し、騎士は鎌を握る手を上げた。
「お前はラクロアを守護する双竜の片割れ。だが闇は封じられ、光は再び樹に戻った。これは何を意味すると思う?」
竜は動かない。
騎士は哂う。
「混沌だ。混沌が必要なのだ。全ての秩序をもう一度作りださねばならないのだ。この、古き因習に絡め取られた愚かな世界に」
握り締めた拳には温度はなく、鈍い金属が擦れ合うような音だけが響く。
それを忌々しく眺めながら、再び彼は竜に手を差し伸べた。
「我が力となれ、闇の竜よ。お前の封印は解かれたことで、対成す力もまた生まれ直すことだろう。そしてその力が合わさりし時、黄金の光が蘇る。世界は浄化されるのだ!」
笑い声を上げる騎士。
無言のままの竜。
竜の無機質な瞳に映される彼の姿は、どんなものに見えたのか。
運命の神々に用意された舞台で踊る滑稽な人形だろうか。
命の源でもある聖なる樹に呪いの言葉を歌う罪人だろうか。
世界の意思である精霊に最後の願いを祈る生贄だろうか。
しかし、竜は伸ばされた手の空虚さを認めるのみ。
己を宿すことで死神となる騎士の力となることを哀れむことだけ。
「我が契約に答えよ、スティールドラゴン」
――いつか彼が、彼の望んだ結末が少女の笑顔を曇らせてしまうことに気づいてしまった時。
自分だけは、元には戻れぬ主のためにせめてもの断罪を捧げよう。
密かな決意を抱きながら、鋼の竜は氷刃の騎士の身体へと身を寄せた。
遥かなる封印の地にて、狂ったような高笑いが響き渡った。
++ 狂 言 師 の 開 幕 ベ ル ++
-END-
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毎度お馴染み、ディード話で+スティール。
ラクロアを害成す相手だと分かっていながらも、スティールが手を貸したのは何故なんでしょうか。
グリフォンと同じようにダークマナの気に当てられたから?
個人的にはエピオン同様、何かしら同じものをディードに感じていたらと思いつつ。
これまたいつも通りに薄暗いですね…。
(2007/09/26)
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