J a m m i n g






 その時、彼は世界に触れた。

 機械と電子と仮想の意思の数々に。




 キャプテンは自らが走り行く、システムの道を振り返る。
 操られていたモビルシチズン達は自我を取り戻し、暗かった彼らのAIが仄かな輝きを伴って閉鎖空間の中に灯っていた。

 ブレインズワールドを繋ぐ光の糸。
 これが、ソウルドライブが紡いだキャプテンシステムの道標。

 発動命令を下された今では少しの猶予もないが、その光景は夜空に描いた星座の様に美しくも見える。
 シュウトとゼロと爆熱丸と、四人で見上げたある日の星空のように。
 穏やかなあの一時を取り戻すため、キャプテンは電子の世界をひた走った。



 何処まできただろう。
 大部分の者達は正常な状態に戻したはずだ。

 キャプテンは一段と暗い一角へと足を踏み入れた。
 そこには記憶にあるネオトピアの住人にはありえない、独特の薄ら寒い気配がする。
 一見すれば誰もいないように見えるのに、キャプテンには何かひっかかるものがあった。

 一歩、足を前に出しただけで。
 猛烈な寒さと空気の重さを感じた。

「……誰か、いるのか?」

 声をかけてみても、まるで何も無い部屋に反響するように自分の声だけが返ってくる。

 ――違う。誰かの声が自分と重なって聞こえてきた。



『だ、れ……いる、の……す……か?』



「! そこにいるのか?」

 弱々しい声が、奥の暗い一角から這い出てくる。
 伸ばそうとしても手が届かず、また照らそうにもこれ以上前には出れそうに無い。

 目を凝らしてみても、そこにはただ真っ暗な闇が広がっている。
 声の主らしき姿は何処にも見えない。

『誰……でも、いいから、お願い……助けて』
「君は誰だ? 私が見えるか? ここまで出てこれるか?」

 一方的な言葉に必死で追い縋る。
 泣きそうに揺れている、か細い声は一人ぼっちの迷子のように不安げだ。少しでも早く、声の主の元まで行ってやりたかった。

『暗い、怖い……ねぇ、私は、必要とされているのですか?』
「君は、一体――」

 突然、その暗闇から引き離されるように激しい風がキャプテンを遮った。
 切ない言葉の数々はその風に吸い込まれるように遠のいていく。身体が引き千切れそうになりながらも、キャプテンは手を伸ばすことを諦めなかった。

「私はここにいる!」

 叫ぶ自分の声もまた、弾き飛ばされるように轟音に消えていった。


 勢いが納まった頃、キャプテンは閉じかけていた目を開く。
 無音の空間が、そこには延々と続いている。

 助けを求めていたあの声は、もう何処にも感じ取れなかった。









 -END-





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キャプテンシステム発動中の出来事、マドナッグ編。
ソウルドライブはどこかしら繋がっていると思います。
マドナッグの他、コマ様とか閣下とか…。
(2005/12/14)



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