Do you swear it?


 誓いますか?





 Yes, I do.


 はい、誓います。






 ++ HAPPY DAYS ++






 さらさらと光の注ぐ寝室。朝の柔らかな明かりに気付き、リリは微かに身じろいだ。
 ゆっくりと瞼を開けば、散らばる己の髪と真っ白なシーツが目に入った。
 ちらりと視線をそのまま動かしていけば、ここが変哲もない城の自室だとすぐに分かった。

「わたくしには過ぎた夢ですね」

 彼女は起き上がって溜息を吐いた。
 けれど落胆の色は少ない。微かに頬を赤らめて、幸せそうにほんのりと笑った。



 金色の鐘が、白亜の教会で鳴り響く景色。
 はばたくのは平和の象徴たる白い鳥。

 人々からの祝福の中で、寄り添いあいながら笑う二人。
 清楚な服を着込んだ自分の隣には、思い描いた少年の成長した姿が当たり前のように存在した。
 赤い絨毯の敷かれた回廊を歩き、手には花束。
 ブーケを観衆に投げて見せたところで、夢はぷっつりと途切れてしまった。



 リリは乱れた髪を櫛で丁寧に梳いた。
 昔は侍女が部屋にやってきては、せっせと身の回りの世話をしてくれていた。
 髪を梳くことも、服を着るときも。
 今ではそれも全て自分の手でしている。始めの内は父親に色々と言われたものだが、彼女は頑なに拒んだ。
 家臣も皆うろたえていたあの頃を思い出し、リリは鏡の向こうの自分にくすりと笑いかけた。

 自分でできることは自分でしたかった。
 国でたった一人になってしまった騎士だけは、呆れたような顔をして承諾の意を示してくれた。

「いいのですよ。姫の頑固さは筋金入りですから」
「まぁ、ゼロ!」

 すまないと思って謝ってみたところ、ゼロはこんな返事を返してくれた。やや憤慨したものの、彼なりの思いやりだと分かっていたため後で二人して声を上げて笑った。
 変わったのは自分だけではないのだと、彼女は実感している。
 新たな仲間達との長い旅は、騎士としての生き方しか知らなかったゼロに、王女としての生き方しか知らなかったリリに、様々なことを学ばせてくれた。

 特に、彼は。

「……シュウト」

 櫛を置いて、天窓を見上げる。
 気持ちの良い朝日が、先程よりもやや高い角度で降り注ぐ。記憶の海に沈んでから、随分と時間が経ってしまったようだ。
 三つ編みを丁寧に施し、鏡を見ながらいつもよりやや簡素な装飾を施す。
 宮内ではめったに着る事のできない服を確かめるように、姿身の前でリリは回ってみた。腰のヴェールがふわりと舞う。
 再び視界に入ってきた姿見の中には、決意の表情を浮かべた一人の少女が立っていた。





「でも良かったの? 王様心配していない?」

 旅はまた始まった。
 二人はまた巡り合った。
 シュウトの言葉にくすりと笑い、リリは楽しそうに空を見上げた。

「ええ。わたくしにできることは、わたくし自身がやらなければいけません」

 リリはシュウトに教わったことを復唱するように言った。
 自分を信じること。仲間を信じること。自分ができることは精一杯頑張ること。
 それから、決して諦めないこと。

 まるで空の色を映したままの瞳に、ゆるりと微笑まれ、シュウトは思わず赤くなった。
 自覚しているのか、相変わらず鈍感なままなのか。
 リリはどちらでも構わなかった。
 自分を姫だとか王位継承者だからと言って擁護するのではなく、単なる友達として仲間として少女として守ってくれると言ってくれた彼が好きなのだ。
 何度挫けそうになっても、諦めずに頑張れと言えるシュウトだから。

「うん、そうだね。あ……でも、さ」
「?」

 こくりと頷いたシュウトは、少しだけ気まずそうに言い淀んだ。
 首を傾げたリリにどぎまぎしながらも、依然として赤いままの頬をかりかりと掻いた。

「きっと皆助けにくるから――勿論、僕も。だから、無理はしちゃ駄目だよ」

 子供らしい無邪気な笑顔が愛しく感じる。改めて言うのが照れ臭いのか、シュウトは少しだけ俯いたままだった。
 リリは、心の奥底で望んでいた言葉を貰えて一瞬だけ呆然としてしまった。
 そうしてもたげてくる温かな感情に満たされ、ついつい意地悪で尋ねてしまう。

「シュウトも?」
「そりゃそうだよ!」
「絶対?」
「一番に助けに行くからさっ!」

 冗談交じりの質問にも即答の勢いでシュウトは答えてくれた。
 何度も何度も力強く頷いてくれる。
 それが嬉しくて仕方がない。
 目尻に涙が溜まってしまいながら、リリは一頻り笑った。もちろん、シュウトと一緒に。

「わたくしも、シュウトが無理にないように助けに行きますよ」
「うん、ありがとう!」

 二人は手を繋ぎながら、異世界の空の下、歩いていく。
 ここにあの壮麗な建物はない。涼やかな鐘の音も、祝う人込みもいない。ましてや故郷ですらない、まるで違う次元の彼方。
 けれど、思う。
 共に歩んでゆけば、何も怖くはない。

 幸せな日々は、今ここにあるのだと。
 何処であろうと、二人にとって約束の地となりえるのだから。






 Do you swear it?


 誓いますか?




 Yes, I do.


 はい、誓います。




 君を。

 貴方を。



 必ず守ります。



 そして、共に生き続けましょう。






 -END-






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シュウリリです!!<
せっかく頂いた結婚ネタ、こんな微妙な使い方していてすいません;
二人の関係って、こう……守って守られてっていう戦友みたいな逞しい絆でいて欲しいです。
シュウ←リリっぽいかなと思いつつ、原作からしてそうなので多分ずっとこんな雰囲気。
でも旅しているうちに、シュウト君も好きになると思います。のでこんな妄想でした。
(2005/04/13)

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