-- 風鈴と怪談 --



「……そこで、ばぁっと!」
「ひいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」

 身振り手振りでその様子を再現するシュウトから、物凄い勢いで爆熱丸が遠ざかった。
 それこそこっちが驚くほどの、悲鳴と共に。

「あー爆熱丸ってば! まだ終わってないって」

 残念そうに呟くシュウトは、残った面子に対して続きを話し出す。
 特にキャプテンは興味津々(見た目は平然としているが先程からやたらとシュウトを促している)だった。


 場所はシュウトの小屋の裏。
 とうに日は暮れ、夕食時も過ぎた。
 時々風が草原をざわつかせ、暑い空気を流している。今夜も熱帯夜になるらしく、また月の光も強くは無い。

 こういうときは絶好の怪談日和だと、誰が言い出したのか。
 異国の風習に乗り気なリリ姫を止めることは不可能で、子供らしくこういった話が好きなシュウトはとっておきの話を持ち出した。
 爆熱丸の猛抗議も軽くスルーされ、五人は円陣を組んで蝋燭を明かり代わりに灯した。
 そして、涼しさを提供する怪談話は始まったのだ。


 遠くへ去った爆熱丸が戻ってきたのは、ちょうど六番目の話が終わったところだった。
 毎回こうして盛り上がったところで彼は逃げ出している。
 そのため、一人になると余計に怖いのかとぼとぼと結局輪の中に返ってきた。
 話の顛末までを聞いていないため、いつまでも中途半端に爆熱丸の中で恐怖が蓄積されていた。
 顔が蒼白を通り越して、すでに真っ白になりかけている。

 ところがご丁寧に、シュウトが話しているのは学校の怪談。
 この手のネタは沢山あるらしく、会話は(爆熱丸から見れば何故か分からないが)とても弾んでいる。
 戻ってきてしまった爆熱丸は既に緊張がピーク状態。再び一人で逃げ去る度胸は全く無い。
 彼はキャプテンとゼロの腕を必死で握り締めた。

「さ、さあ! 次で最後だな! ここここ怖くないぞ! 早く、話すがいい!!」
「爆熱丸……震えが止まってないぞ……」

 そういうゼロの語尾も弱々しい。

「そういえば、話が全て終わると何か起こるらしいな」

 そこへ、無遠慮な台詞が割ってはいる。
 冷静な言葉はただ事実を言ったまでなのだが、間近でそれを聞いた赤い武者と青い騎士は一気に硬直した。

「キャプテン、それは百物語。他には七不思議とかあるねー。全部知っちゃうと、不幸が起こるとかさ」

 親友よりもさらに恐ろしいことを言ってのけたシュウトに、二人はもはや泣きそうになる。
 ゼロは助けを求めるようにリリ姫の方を見やるが、彼女は楽しそうに笑っているだけだ。

「あ、僕の話は別に七不思議じゃないから安心してね」

 屈託の無い笑顔でそう告げられても、次は七番目の話なので全くフォローになっていないと爆熱丸は鼻を啜った。



「それでその子は、夕暮れの教室に一人で残っていたらしいんだ」

 話は徐々に山場に向かい、全員が息を呑んで耳を傾ける。


 その生徒は、追試を受けるために居残りをしていたらしい。先生には遅くなる前に帰りなさいとは事前に言われていたが、どうしても今日中に終わらせたくて長く机に向かっていた。
 出されたプリントを終えた頃、ふと気が付くと辺りは暗くなっていた。
 生徒は慌てて帰ろうと、荷物をまとめて教室の扉に向かった。

 すると、背後からかチリン……チリン……という、涼やかな風鈴の音が聞こえた。
 窓も開けていないし、部屋に風鈴なんて置いていない。
 恐々と振り向くと音が止み、見渡す教室の中には何もなかった。

 生徒は気のせいかと思ってまた背を向けた。ところが、再び音が鳴り響いた。

 生唾を飲み下し、生徒は背筋を震わせた。どことなく生温い空気が絡み付いてきているように感じた。
 ゆっくりと室内に顔を向けた生徒は、目を丸くした。


「浴衣姿の女の人が、窓の向こうに立っていてにぃっと笑ったんだ」
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 雄叫びのような悲鳴を上げて、爆熱丸はとうとう失神した。
 耳元で叫ばれたゼロもまた、極度の緊張からか背筋をぴんと伸ばしたまま固まっていた。

「それからどうなったのですか!?」
「うん。その子は一目散で帰ったらしくてね。後日知ったことなんだけど、祭帰りに恋人に風鈴を買ってもらって事故死しちゃった女の人が本当にいたらしいよ」
「なるほど。恋人のくれたものを見せるために現れたのだな」

 冷静に分析をしているキャプテンと、ドキドキしながらも身を乗り出しているリリ姫、怖がらせたことに得意気なシュウトは、平然と話を続けている。
 いまだに固まったままのゼロは、一応失神している爆熱丸を揺さぶり起こそうとした。
 気を失っていたのは数分のことで、すぐに目を覚ました。

 もちろん、都合よくその時の記憶がぶっ飛んでいるわけもなく。


 ――チリン……チリン……。



「「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」


 爆熱丸とゼロは仲良く叫び声を上げ、真っ暗な草原に向かって泣きながら走り出した。

 あっという間の出来事に、残された三人はきょとんと顔を見合わせる。
 シュウトは蝋燭をかざし、上を見上げた。
 昼間皆で飾った風鈴が、小屋の手すりで揺れていた。



 数時間後、二人は仲良く手を繋いで帰って来たらしい。




-END-




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ED後の次元パトロール隊なフォース陣。
怖い話が嫌いな方、すみません;<書いている人も怖がりです。
爆熱丸が怖がりなのは有名ですが、ゼロも便乗して怖がりっぽい。緊急時は仲の良い二人。
逆にキャプテンとリリ姫は全然平気臭いです…。シュウトは普通?
(2005/08/22)

この小説は残暑見舞いで配布していました。
お持ち帰りありがとうございました!
(2005/09/05)


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