+++終わってしまった世界の唄






 ああ、我が神よ。
 暗き闇を轟かせたまえ。
 光ばかりが正しき世界を滅してしまえ。

 私の居所がない場所なんて。
 私の生まれた意味が無い世界なんて。

 私は、いらない。


 我が神よ。世界の敵。崇高なる破壊神よ。


 私を捨てた世界を、食い尽くしてしまえ。





 そこにはただ真っ暗な世界が続いていた。
 上下も左右も、間隔がない。ただぽっかりと開いた穴に放り込まれたような、孤独な寂しさだけがそこにはあった。

 ガーベラが憎んでいた優しくも残酷な光は一片も見当たらず。
 マドナッグが欲しがっていた温かい存在も感じられることはない。

 絶対の無。

 閉ざされた空間は、まさしくあの日の如く。


 痛烈な熱を感じたのはどれくらい前だったろう。
 あれほど焦がれた彼の人の手に握られたのは。

 時間の感覚も、距離感も何も感知できない世界は、人間で言う所の死後の国なのかもしれない。
 ならば、マドナッグが置き去りにされたあの場所はやはり、地獄だったのだろう。

 白いマドナッグが死んだ日。黒いマドナッグが生まれた日。
 赤いガーベラが嘲笑ったあの日。

 けれど結局、再び自分はここにしか戻ってくることしかできないのだ。
 あの魔人に熔かされることを自ら望んだのだから、もしかしたら天国なのかもしれない。自殺願望にも似た願いだったから、やはり地獄なのかもしれない。

 あんまりにも殺風景な暗闇は、何もかもを蝕んでしまい。
 ガーベラはくつくつと笑いながら、今頃はどうなっているか分からない現世を思った。


 きっと、死にたかった。


 ジェネラルの誘惑にのせられたのも。数多の道具を生み出し、その傍らで多くの部下を見殺したことも。
 本当はどうでも良かったのかもしれない。

 ただ、ひたすら自分は世界に復讐してやりたかった。
 自分はここにいるのだと。お前が捨てた自分が、お前を殺そうとしているのだと示したかった。

 親に切り捨てられた迷い子のように、大声を叫ぶが如く。
 自分はこんなことができるのだと、言いたかったのかもしれない。

 それはもう過ぎたことで。今更何を思っても無駄だろう。
 ガーベラはゆっくりと目を閉じて、意識を闇に溶け込ましてみた。徐々に、意識は輪郭をなくす。
 黒い自分は、黒い世界にいつか消えて行く。遅かれ早かれ、必ず。

 眠ろう。もう、何も考えずに。

 居所がなかった場所を呪う事にも疲れ果てた。
 ただ、今は自らを受け入れてくれたこの永劫の暗闇に抱かれて、目覚めぬ夢を見ていたかった。


『ああ、貴方も結局ここに還ってくるしかないのですね』


 聞こえてくる囁き声に、ガーベラは嘲笑った。
 そして、その闇の子守唄に誘われるようにゆっくりと意識を閉じていった。


 自分という存在が消え去ってもなお、光り輝くあの場所は自分達を受け入れてはくれない。
 漆黒の闇だけがささやかな止まり木となり、永久の旅へと誘うのだ。

 終結してしまった世界の中で、哀しいメロディだけが密やかに歌われる。
 まるで、追悼歌のように。






 -END-





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還る場所のない二人を思い。
相変わらず暗い;;
(2005/11/11)



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