ネオトピア郊外に広がる草原に、ぽつんと一軒家が建っていた。
 家を囲む柵には、女の子が寄りかかって歌を口ずさんでいる。

「ゆうやーけこやけぇのあかとーんぼー」
「それはどんな意味の歌だ?」

 彼女を見守るように隣に立っていた、白いモビルディフェンダーが首を少しだけ傾げた。
 金髪の女の子は「ママに習ったの」と得意そうな笑顔を見せた。

「昔のお歌なんだって。よく分かんないけど、ナナは好き。マドちゃんは?」
「いい歌だな。私も歌おうか」

 そうして、陽が西に傾いた温かな空気の中で、高い声と低い声がメロディーを作っていった。





::: D e a r e s t :::





「マドナッグくん……」

 早くに仕事を終えてきたけい子は、思わず頭を抱えてしまった。
 ナナと一緒に留守番をしていたモビルディフェンダーが、この短時間であっという間に変貌を遂げてしまったからである。

 調子外れなナナに合わせて歌っていた彼は、見事に不可思議な音程を覚えてしまっていた。
 稼動してからの経験が少ないマドナッグは、入ってくる情報をどんどん吸収してしまう。
 メモリーに加算されたものは、どうやってももう戻せない。

 せめてナナが、父親に似ずに音痴でなければまだ救いはあったのだが。

 まだ小さいのだからといって訂正しなかったけい子は、少しだけ後悔していた。

「ママーお帰りなさい! ねぇねぇ、お歌うまくなった?」
「ご苦労様です。異常ありませんでした」

 陽気なナナと真面目なマドナッグ。
 こんな二人が、先程破壊的な音程で力いっぱい歌っていたとは信じたくない。
 がっくりと首を垂れ、けい子は部屋へ入ろうとした。

「ホラ、寒くなるからナナは入りなさい」

 元気良く返事を返し、マドナッグに手を振った少女は屋内へと駆けていった。



 それを微笑ましげに見ていたマドナッグだったが、不意に差した影に気付く。
 振り返れば、長年見慣れた相手がそこにいた。

「随分と音痴なんですねぇ、マドナッグ」

 全体的に黒っぽい姿が逆光となり少々見辛かったが、特殊スコープを持つマドナッグには関係ない。
 甲冑を身に纏った騎士が、呆れたように宙を浮いていた。

「ディードか。音痴ではない。ナナはああして歌っていた」
「――まぁ、人それぞれですよね」

 苦笑しながら彼は地へと足をつけた。
 ふわりと音も立てずに着地する様子は、数年前から何も変わっていない。

 けれど、マドナッグは知っている。

 自分も彼も内面的な価値観が、過去では考えられないほどに引っ繰り返っている。
 あれほどまでに凍えきっていた精神は、かつて敵対していた者たちの手によって温情を与えられた。
 だからこそ、憎んだ人間と、相容れなかった同士と、こうして肩を並べていられるのだ。



「――仲間、か」



 マドナッグはぽつりと言葉を吐いた。
 無意識について出たそれは、止めることも出来ずにディードの元へ届いてしまう。
 彼は姿を変えていた当時と同じように――これはすでに癖としてついてしまったようだ――目を細めて嘲笑した。

「感傷的なことで。いつからそんなに群れるのがお好きになったのです?」
「全くだ。変われるものだな」

 おや、とディードは少しだけ瞠目した。
 常ならすぐに切り返されるくだらない言葉遊びが、今ではさらりと受け止められた。

「お前は? 皆でいるのも、悪くないと思わないか?」

 マドナッグは穏やかな瞳のままで聞き返した。
 正たる感情を宿したソウルドライブが働いているのか、あの頃よりも眼光が和らいでいる。

「私は……」

 言いかけたディードは、はっとして振り返る。マドナッグも首を持ち上げ、空を見上げた。

 夕焼けに染まる大気の中、一隻のガンペリーが降りて来た。
 そこから、朗々たる男の声が響く。

「緊急要請だ。早く来い」

 腕を組んだ騎馬王丸が、いつもの調子で立っていた。


「貴方が迎えとは珍しいですね」
「仕方あるまい。緊急だからな」
「了解した。まずは基地に向かうのか」

 三種三様の台詞を言い合いながら、ガンペリーは飛び立とうとする。
 様子に気付いたのか、部屋から出てきたナナが大きく手を振ってくれた。

「マドちゃん、みんな、頑張ってね!」

 素直な少女の気持ちが率直に伝わってくる。
 見送りを受けて、三人は顔を見合わせた。それからおずおずと手を振り返す。

 ナナはこれでもかというくらい、嬉しそうに笑った。


 それからどんどん景色は遠くなり、家も小さくなっていく。
 青々とした草原の海が広がり、遠くに見えていたネオトピアの都市部がだんだんと近づいてくる。

「――まぁ、別に嫌じゃないですけどね」

 ディードは囁くように言った。
 微かに目を丸くしたマドナッグは、そうしてゆるりと小さな笑みを浮かべた。






 -END-




---------------------------------------------------------
もう、ありえなくらい自分設定満載ですいません;<ガベ様は別人ですな
ナナちゃんはまるっきり想定されております;
元三大幹部の皆様の未来。生きていたら仲直りして新生GF隊員になったり。
きっとキャプテン達がいないときに、ネオトピアを守るんだよ<妄想し過ぎです
このありえなさが自分らしいと思った瞬間、28.1%(高視聴率)
マドちゃん中心で書いていたのに、いつの間にかD様出すぎです。
(2005/01/22)


←←←Back