――青い薔薇は何を意味するの?――
青い花弁は謳わない
「貴方に、このプリンセスローズを差し上げましょう」
傅く騎士に、幼い少女は一輪の美しい薔薇を取り出した。
膝を付く彼と姫の目線はほぼ同じ。
彼女は、まるで彼の兜にその花を挿すように前に差し出す。
彼は、それを恭しく受け取り、小さな小さなか弱い手をそっと取った。
「この氷刃の騎士ディード、ありがたき幸せ」
「これからラクロア親衛隊の騎士として、このラクロアをお願い致します」
彼女はにこりと笑い、騎士の顔を見た。
視線に気付き、彼もまたゆっくりと顔を上げて微笑む。
それは契約。
それは約束。
守るべき小さな姫の双肩に乗る、国という重さを支えるため。
彼女の作り出す世界を守るという、重責を負うための。
そして。
彼が愛しい彼女を、命をかけても守ろうと思った決意の瞬間。
与えられた青い薔薇。中庭にしか咲かない、魔法の花プリンセスローズ。
信頼の証。絆の形。
これが、親衛隊に選ばれた確かな証明となる。
「我が身、我が心、貴方に捧げましょう。我が姫よ」
彼は誇らしげに、力強い瞳で頷いた。
その手の中で、青い花弁がきらきらと輝いていた。
遠い遠い昔の、まだ清らかだった想い。
だけど。
あの薔薇が意味するものは。
「人間になることは不可能? そんなわけない。そんなわけが、あるはずない!」
激昂の声は、血を吐くように枯れている。
見上げる石碑は、彼の求める術を描き出している。
スペリオルドラゴン。
奇跡の力は、哀れな騎士の元にも等しく降るのだと信じて。彼は道を踏み外す。
約束の薔薇を傀儡に仕立て。
あの、少女に似せて。
「私は、絶対に、絶対に貴方と結ばれるのだ!」
泣き叫ぶような想いを、薔薇は静かに見つめている。
止める術すら見つからず。
嘆きながら嘲笑い続ける愚かな騎士を、ただ見守ることを選び取る。
「何で、お前はこうも簡単に人の形を取れるというのに――」
剥がれ落ちていく仮面の隙間に見え隠れする、悲嘆の言葉を聞かないふりをして。
薔薇の少女はただ目を伏せる。
いくら人の形を得ても、薔薇は薔薇でしかないのだから。
そうして地へと落ちていく、一輪の花を見て彼は哂った。
青い薔薇。
凛とする気高き王女の薔薇。
差し出した彼女は知らない。
その花が、意味している隠された言葉の名を。
青い薔薇。
信頼、そして騎士道の誓いの薔薇。
受け取った彼は知っていた。
その花が、自分の望みが叶えられないものだと意味することを。
青い薔薇。
それは、不可能を意味する無慈悲な花。
-END-
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プリンセスローズの花言葉に「不可能」という意味はないと思いますが。
一応、一般的に言われている言葉として。
実際、青い薔薇は無い(遺伝子組み換えで今はありますよね…)ので花言葉も無いらしいですが。
姫に「不可能だ」と言われたような気もするし、親衛隊のディードとして与えられた花でもあるので、
花を持ったままでは自分の望みが叶わない、というニュアンスで――。
何となく感じ取っていただければ(いつもそんなこと言ってますね;)
(2005/09/30)
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