終わらない輪舞曲


 我はまた繰り返すのか。


 彼の者の肉体を切り裂いた感覚はいまだにこの手の内で生々しく罪を突き付けてくる。
 殺したのはお前だと、内側に潜む生易しい恋情に絆されてしまった愚かな己が、機械的に切り裂いた冷たい自分を激しく糾弾して泣き喚く。だがそのように嘆く感情を抱いたのもまた貴様のせいだと、こちら側からも睨み付けた。
 結果的に、愚かな自分も職務を真っ当した自分も同罪なのだ。
 愛しいと想えた人をこの手にかけた。
 天かける姿が何よりも自由であり、故に空への憧憬に捕らわれていた隻眼の竜を逃したくなくて。泥塗れの自分の居場所へと引き摺り落とそうと、刃を向けた。
 彼はいつだって側にいるという睦言にも似た約束など、一度もしようとはしなかった。自分達の立つ場所を思えばこそ、それが戯言で終わると分かっていたからだ。
 分かっていなかったのは我の方。
 理性的には割り切っているつもりだったが、所詮つもりでしかなく。
 揺るがぬ筈の何かが臓腑の内で轟き出し、いつからか彼を求めて止まなくなるほどの愛憎を孕んだ。

 天を望んで何処へ行く。
 その空へはどうしたって我の短き腕は届かないというのに、竜は何故昇ろうと背を向けるのだ――。

 待ってくれと縋ればよかっただろうか。
 おいていかないでと啼けば振り向いてくれただろうか。
 結局自分が選んでしまったのは、いずれ祖国へと降り掛かるであろう災厄になる前に竜を屠ること。それ以外に何をすれば、彼を大地へと繋ぎ止められるのか分からなかった。

 他に、どんな方法があったというのか。

 我は間違っていない。間違っていないのだと、幾度となく繰り返すけれども。
 ――足元の亡骸はもう此度の時を解放され、自分を置いて行ったのだと思うと。
 当の昔に枯れ果てていたはずの涙が一つ、零れ落ちた。

 そうして気が付けば、自分の周りには誰もいなくなって。
 天の重みは我が身に降り注ぎ、二度と誰かに心を揺さぶられることもなく日々は無情に過ぎ去った。





 命果てれば再び戦乱の世へと時間は巻き戻る。
 嗚呼また繰り返すのというのかと、気が狂いそうになる連続された歴史の積み重ねに目を伏せて、顔を上げた。
 眼下には此度では初めて逢い見えることとなる、懐かしき青い御旗が土煙を従わせて現れた。
 鋭い眼光にかつての残滓を見出しては切なく疼く想いもまた蘇り、そうして二人は甘くて哀しい時間を消せないまま再び出会ってしまった。

「独眼竜……政宗……」
「Oh, I'm glad! また会えたな、元就さん――」

 死しては生きて巡り会う二人。そうして何度でも惹かれ合う二人は。
 永久に続く輪舞曲の中で、いつかいつかと願いながら幸福であれる終演を目指して此度もまた歴史の中で踊らされる。




(俺はまた繰り返すのか。アンタに殺され、アンタを殺す永久の夢を。だが二人で生きる未来を得られるまで、俺は絶対に――)



 - END -





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ゲームの仕様上で婆沙羅暦が繰り返されるわけですが、前の記憶を持っていたらこんなことになるのかもしれない。
何度も出会っては惹かれ合い、殺し合わなければならない二人。
(2009/6/21)


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