光の丘へ、の続き。
午前に見かけた時よりも断然広くなった部屋を自室だと言われ、通された政宗は敷かれた布団をじっと見下ろしていた。沈黙が随分と長く続いているようで、向かい合って座っている元就は無表情ながら困惑している。
政宗が現在進行形で謎に思っているのは、目の前にある寝具である。
二枚並んでいる。それは良い。
それがくっ付け合っている。前にもあったのだからこれも良い。
だけど。
「何で縫い合わせてあんだよ!」
思わず頭を掻き毟りながら政宗は怒鳴り散らした。
元就の前では背伸びしたい年頃なのにそんなものさえ取り繕うこともせず、政宗はこの寝具を制作したであろう面子の顔を思い浮かべて唸る。
あんまりにも情けない様子に元就は溜息を吐き出し、政宗と同じようにして布団を眺めた。
「不精な集団だと思っておったが、中々見事な縫い目よのう。針子は要らぬのでは」
「小十郎めぇ! いらん時に職人技を見せやがって!」
きーきー喚く政宗を尻目に、とりあえず寒さを凌ぐために元就は布団の中へと身体を滑り込ませた。
普通に寝れる。
「問題ないぞ」
「大有りだろ?!」
仰向けに天井を見つめる元就に、政宗は顔を赤くして突っ込んだ。
「お、俺は、堪え性があんまりねぇんだぞ! アンタ分かってんのか!?」
「はぁ」
気のない返事にがっくりと肩を落とし、政宗は頭を抱えた。
絶対分かっていない。
こんな、新婚さんいらっしゃーいな寝具なんて、はっきりいってお膳立てどころか余計なお世話である。
なのに元就は意識していないというか理解していないままだ。
危険である。
「つべこべ言わずに入れば良いだろう。前と何も変わらぬ」
「変わっています、全然変わっています」
想いが添い遂げられたら、普通は次に身体だ。はっきり言って、告白し合ったその日にやるのは、ちょっぴりロマンチストな(本当か?)政宗としては情緒もあったものではない。
しかも、この分だと。
(ぜってぇ賭けの対象にされてる!!)
娯楽の少ない伊達軍である。
家臣団は政宗より断然年上の方が多いため、若者のあれこれに興味津々なのだろう。若かったら若かったで興味津々だろうが。
自分の純情(?)を賭けられては溜まったものではないし、これを仕掛けていっただろう小十郎には絶対期待されている。部屋を用意しただろう延元もまた然り。
誰かの思い通りになることが嫌な政宗は、どうしようかと元就を見下ろす。
したくないわけじゃない。断じてそれは無い。
――のだが。
「どうしたのだ?」
疑いを全く持っていなさそうな琥珀の目に見つめられると、不埒なことを考えている自分が愚かな生き物に思えてしまう。
っていうかこの人、ちゃんとそういう展開にいくかもしれないって分かっているのか。
慌てふためく事が段々と馬鹿らしく思えてきた政宗は、意を決してようやく布団へと潜り込む。元就の体温で僅かばかりに温かくなった布団は、とても心地良かった。
それにくすりと笑んで、政宗は元就と顔を合わせた。
「Dreamlike……昨日まで一人寝だったからな」
「ふっ、我はここにいるぞ?」
そんな感じで良い雰囲気になった二人は、それとなく身体を寄せ合った。
ああもう、このまま流されてもいいんじゃないか。
政宗は一つ目を瞑り、己の中を駆け抜ける劣情を感じ取った。
再び瞼を開き、記憶よりも痩せただろう元就の頬へ指先を滑らせる。そしてそのまま顎を掬い取った。
相手の意図が読めたのか、大人しく元就は目を伏せる。
そうして、そっと唇を寄せようとした瞬間。
「聞いてよ政宗ぇぇぇ!!!」
すぱぁーんと良い音を立てながら、続きの間に繋がる襖が勢いよく開かれた。
思わず政宗も元就も硬直した。
扉を開いた成実はぽかんと口を開け、一呼吸を置いてから現状を理解した様子で顔を染めた。
「あ、あ、あの、お邪魔、しましたー!」
乾いた笑い声を上げながら、そっと襖を成実は閉めた。
残された二人は互いの顔を見合わせる。元就が可笑しそうに喉を鳴らし、肩を竦めてみせた。
ようやく情報が脳に到達した政宗は、恥ずかしいのか情けないのかよく分からない表情を浮かべながら、鬱憤を晴らすように怒声を上げた。
嗚呼、畜生!
これじゃあ二人きりの蜜月なんて絶対来ないじゃないか!!
「だ、か、ら、ここは俺の部屋だって言ってんだろう!!!!!!!」
- END -
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「光の丘へ」を書いている最中に出来たブツ。折角なんで上げてみました…。
最後の最後でやっちまった感が溢れるヘタレコメディ。
政宗様、何か吹っ切れちゃってテンション高いです(笑)
(2007/04/07)
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