異端生物 〜the blue eyes of the Siena〜 番外編
- Letter writer 〜Sara〜 -
Dear My Friend.
――親愛なるシエナ様へ。
初めてのお手紙、ありがとう。正直、届けられたときびっくりしてしまいました。
だって、いつもみたいに図書館の手入れをしていたら、いきなり窓にコウモリがいたのだもの。きっと私じゃなくても驚くんじゃないかな?
うん。私も元気だよ。
町の皆もいつもどおり、平々凡々とつつがなく過ごしています。まぁ、田舎だからね。大きな事件ってあんまりないのはシエナも承知のとおりです。
運河は相変わらず気紛れで、優しいのか怖いのか分からない。
この前は水門の回し車が錆ちゃっていたものだから、皆で一緒に引っ張ったんだ。そうしたら、まるでイタズラされるように引いた歯車が元に戻ってしまうの。シエナのお母さんのせいかしら。
時たま、シエナを思い出してあの橋で歌を歌うようになりました。シエナの歌はとっても綺麗なんでしょうね。いつか聞いてみたいです。
友達も増えたみたいでほっとしています。
シエナはちょっと抜けているから、悪い人に騙されそうだもの。――なんて言うと怒るかな?
シエナの言っていた植物学の本は、この間見つけました。
わたしは高山の植物って見たことがないけれど、この本の絵はまるで本物みたいに綺麗ね。
その、フォードさんが今まとめている研究も、いつかわたしの図書館に置きたいと思ってます。
フォードさんは随分優しい人なんですね。安心しました。
若い男の人ってあんまりこの町にはいないから、なかなか想像できないのだけれども。
手紙を届けてくれたコウモリは、最初見たときちょっと怖かったけれど愛嬌があって今では可愛く見えます。
何事も先入観が先立っちゃうんだって、最近ますます思う。
シエナのこともそうだったし、フォードさんも魔物だということを聞いてちょっと怖かった。
でも、手紙の中のシエナは何にも変わっていなくって。そんなシエナにこうして字を教えて、手紙を届けてくれるフォードさんも、普通の人と全然変わらないのだと感じました。
シエナのことを聞いてくる両親や町の人達には、シエナは旅に出たって行ってあるけれど、本当のことをきちんと言える日が早く来て欲しい。
わたしの友達は人魚なんだよって、自慢したいもの。
ともかく、シエナが元気そうでわたしは嬉しいです。でも無理はしないでね。
わたしはわたしなりに毎日頑張っています。
また都合が良かったらお手紙下さい。わたしはいつでもシエナを待っています。
――運河の町のサラより。
追伸。
次はもっと字が上手になっていることを期待しています。
頑張ってね!
+ + + + +
手紙を読み終えたシエナは、机の傍の窓を見上げた。
カーテンレールにぶら下がっているのは、彼の友人の手紙を運んできてくれた一匹の蝙蝠。
昼間だからだろうか、その黒い塊は何だか眠そうに欠伸を繰り返している。
その様子を微笑ましげに見ていたシエナは、便箋を丁寧に折り畳み、それが入っていた青い封筒にしまいこんだ。
シエナは硝子越しに晴れ渡った空を眺め、遠い西の地にいる少女に想いを馳せた。
次の手紙には一体何を書くことになるのだろうかと、少しばかり楽しみを感じながら。
もうすぐ、夏が終わる。
- END -
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